映画「オーケストラ!」はフランス映画でしたが、上映会では字幕も音声も日本語でしたので、前半の舞台がモスクワだと気づかないで観ていて、かなり混乱しましたが、後半はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の演奏に向けて、話がだんだんとまとまっていき盛り上がっていきました。

音楽と映画というのは切っても切れない関係です。

通常の映画はストーリーが基本なので、音楽は補助的な役割しかないのですが、

この映画の場合は、曲の演奏自体が主要なテーマの映画でした。

この映画の原題「LeConcert」は直訳すると「ザ演奏会」となります。

フランスではこれだけでも映画の題名になるところがすごいと思いました。

「これこそが演奏会」という含みがあるのでしょうね。

日本だと「演奏会」では収まりが悪くて映画の題名にはなりにくいのでしょう。

それで映画配給会社は苦心して「オーケストラ!」と訳したのでしょう。

 

最後の「!」がミソです。

これで、この映画はコメディだぞ!という感じを出したのでしょう。

確かにこの映画はコメディに分類されています。

 

ところで、

オーケストラというのは、楽団という意味ですけれども、もともとは西洋の演劇をするとき、舞台と観客席とのあいだにスペースがあって、

そこで楽器演奏などをするのですが、そのスペースがオーケストラ席と呼ばれていました。

そのうちに楽器を演奏する楽団をオーケストラと呼ぶようになり、

現在ではこちらが主たる意味になっております。

パリのオペラ座では楽団員たちの演奏スペースをオーケストラ・ピットと呼んでいます。

この映画を観ていて思いだしたのは、チャプリンの「独裁者」(1940年)です。

どちらもユダヤ人迫害という極めて切実な問題を軸にして、コメディ仕立ての映画にしたものです。

監督自身があのチャウセスク独裁国家だったルーマニアからの亡命者ですし、

独裁国家のロシアをこれでもかとコケにしておりました。

ボリショイ交響楽団の天才指揮者だった主人公アンドレイがユダヤ人演奏家たちの排斥に抗議して、ユダヤ人演奏家ともども全員が解雇されてしまった。

最後の演目がチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。

そしてそのときのソリストがレア。

レアは夫とともにシベリアに送られ亡くなっていました。

実はその娘を楽団員たちがフランス人に託して逃し、

現在はフランスで屈指のヴァイオリニストになっていたアンヌ・マリーでした。

アンドレイはボリショイ交響楽団から解雇された楽団員たちをかき集めて偽のボリショイ交響楽団を仕立て上げ、

パリで演奏会を公演する計画を立てます。

演目はあのときのヴァイオリン協奏曲。

ヴァイオリンのソリストをアンヌ・マリーに依頼。リハーサルもなし、バラバラになっていた楽団員をかき集めての演奏会でしたが、

アンヌ・マリーの演奏が始まると、楽団員たちはあのレアの娘であることに気づき、心が一つとなって、感動的な演奏会にしたのです。

アンヌ・マリーはすばらしい演奏でした。

この役を演じたメラニー・ロランはこの映画のために9ヶ月の猛特訓をしたとか。

それであんな演奏ができるのかと不思議に思うでしょう。

実は音楽はアフレコで、特訓した先生の演奏でした。

しかしアフレコとは思えない名演技でした。

やっぱり題名は原題どおり「演奏会」にしてあげたいですね。

せめてこの映画の題名を「レアのための演奏会」と呼んであげたいと私は思います。