映画「フラガール」は今年になって初めての、涙の止まらない作品でした。若い娘たちが一途に稽古に励み、みんなで励ましあい、失敗を乗り越えて、ハワイアンセンターの初日を大成功させたときの涙と笑顔には、思わず涙腺が緩んでしまいました。涙が乾くまで、エンドクレジットを最後まで流しました。

 

 フラを解説つきで観たのは初めてでしたが、フラは手話で構成されている踊りだったのですね。あなたと私、波や風や月、愛しているなどの気持ちなどを、両手のやわらかな動きで伝えていました。「アロハ・オエ」というハワイ語があります。アロハは愛、オエはあなたのこと。フラの手話で、アロハは自分を優しく抱きしめるように両手を胸の前で交差させます。それから相手の方に優しく手を伸ばしていきます。「花」はハワイ語で「プア」、手話では、両手の指をつぼめて表現します。

 

 今回の映画を観ていて、おや、と思ったことがあります。フラダンサー募集に応募したド素人の四人がいきなり踊ってみろ、と言われて、トップの女の子が、盆踊りみたいに踊りました。会場からドッと笑いが出ました。しかし盆踊りとフラには、西洋のダンスにはない、なにかしら共通するものがあるのではないか、と私は感じました。盆踊りには、もちろん、手話の要素はないだろうと思いますし、踊りに物語があるわけではないですが、表面的にはまったく異なっていても、根っこのところでつながっているのではないかという感じがしたのです。日本の踊りもハワイのフラも、「身振り」の所作が基本です。

 

 はるか昔の縄文時代の日本人はハワイなどを含むポリネシア人たちとつながっているのではないかという説があります。日本はアジア大陸に近いですから、縄文時代以降に、大陸から様々な人種が流入してきて、長い年月をかけて、少しずつ変容していき、現代の日本人がいます。重要なことは、日本が島国であったため、別の民族がごそっと入ってきて、原日本人が滅ぼされてしまった、というのではなくて、外部から少数の人たちが入ってくると、それを迎え入れ、新しい知識や技術などを受け入れつつ、元の文化を保存していった、ということです。

 

ハワイは、太平洋のど真ん中ですから、西欧人に征服されるまで、ポリネシアの文化が保存されてきたことでしょう。そういうわけですから、ハワイ人と日本人は、一見したところでは言葉も文化もすべて異なっておりますが、根っこのところは同じではないか、と思います。

 

 民族によって、言葉はまるで違います。日本語が他の民族の言葉と基本的に違うところは、母音で終わるところです。外国語のほとんどすべては、子音で終わります。例えば、色の「赤 (あか)」は英語ですと「red」となります。日本語は一字が一つの音韻です。色の赤は「あ・か」と二つの音韻からできていますが、英語の場合は「red」で一つの音韻です。音韻は音声の最小単位ですから、これ以上に分けることはできません。日本人は英語の発音が聞きとりにくいときに、ゆっくり話してほしいとお願いします。日本人は、「あ」、「か」と一音ずつ分けて発音しますが、英語では、「レ」、「ド」と分離できません。欧米人に「red」をゆっくり発音して、とお願いするのは、日本人に「あ」をゆっくり発音して、とお願いするようなものなのです。

 

 ところが、世界のなかで、日本語とまったく同じ発音体系をもっているのがハワイ語なのです。母音も日本語と同じくアエイオウの5つ、子音は日本語の、カ・ナ・ハ・マ・ヤ・ラ・ワ・ッ(促音)の8つです。日本語と同じく、「あか」のように母音で終わり、「red」のように子音で終わることはありません。名詞は二文字が多く、オエ(あなた)、クウ(私)、プア(花)、ウア(雨)などです。昔、ハワイにお金はなかったですから、お金を意味する言葉はありませんでしたが、英語のマネーmoneyが入ってきて、ハワイ語ではマネになりました。「紙」もなかったのか、英語のペーパーがハワイ語ではペパです。こんなところは日本語も似たところがあります。焼鳥のハツは鶏の心臓ですが、英語のハートが日本語化したものです。

 

 また日本語では、雀が「チュンチュン」鳴くとか、風が「ピューピュー」吹くとか、胸が「ドキドキ」するとか、船が「ユラユラ」揺れるとか、繰り返し音の擬音語や擬態語が多いのですが、ハワイ語も同じで、世界の言語のなかで、日本語とハワイ語にしかないそうです。日本語に「ウネウネ」という言葉があり、山がうねっているような様子を意味しますが、ハワイ語では心がうねっているということで、気持ちが動揺して困っているという意味になります。

 

 日本人が観光でハワイに憧れるというのは、母音が主体の言葉や、ゆったりとした動作や、争いを好まないなど、根底のところで共通するところがあるからでしょう。

 

 最後に、映画「フラガール」では、フラガール募集のポスターの背景に、ワイキキの浜から見たダイヤモンドヘッドが使われておりました。そして映画のなかで、常磐炭鉱のぼた山がときどき映し出されます。そしてフラガールたちのPR用の集合写真も背景はぼた山です。ということは、常磐炭鉱そのものをハワイに見立てたのだな、観客にはワイキキの浜辺にいるような気分になってフラを楽しんでもらいたい、という監督の心遣いを感じとりました。