映画「明日の記憶」(2006年)は、題名を見ただけでは、観てみたい映画と思っていなかったのですが、ヒロインが樋口可南子だと教えられ、俄然、観たくなった作品です。というのは、むかし、1982年ごろ、私は山形県鶴岡市の沖で行われていた波力発電の実験に関係していて、よく通っておりました。まだ上越新幹線が運行される直前ごろだったので、上野から特急に乗り、新潟経由で現場に行きました。そのうち上陸新幹線ができて、それを記念して、JR東日本新潟支社限定のオレンジカードが発行され、カードの絵柄は売出し中の女優・樋口可南子(1958年~)の写真でした。その一枚を買い、パス・ケースに挟み、それから40年近く、今でもずっとお守り代わりにしております。

 

 そのオレンジカードの愛称は「KANAKO」です。どうして樋口可南子がマスコットに選ばれたかというと、出身が新潟県加茂市(新潟と長岡の中間)だったかららしいです。先日、そんなことをみんなに話していたら、映画の会のKDさんが、映画「明日の記憶」の主役である渡辺謙も新潟県魚沼市の出身なので、ヒロインに同郷の樋口可南子を指名したらしい、と教えてくれました。

 

 映画は、バリバリの仕事人間だった主人公(佐伯雅行=渡辺謙)が、娘も結婚し、孫もでき、ようやくゆとりができかけたときに、若年性アルツハイマーになってしまい、絶望する本人を妻が支えていく、という夫婦愛のヒューマン・ドラマです。本人は病気が進行していき、最後には妻も認識できない状態になりますが、そんな夫を支えつづける妻を樋口可南子が演じます。妻の献身と覚悟は、鶴岡さんの予告によると、ハンカチが何枚あっても足りないとのことでした。

 

ところで話は変わりますが、ずっと以前に職場の職員研修に、堀江謙一に次いでヨットで単独無寄港世界一周を果たした日本人女性・今給黎教子(いまいきれ きょうこ)さんを講師に招いて体験談を聴いたことがありました。講演後に懇親会で話したことがあり、私が、なにげなく、自分が先に倒れたら妻に面倒をみてもらうつもり、みたいなことを言いましたら、その女性がいきなり真顔になって、あなたは奥さんが先に倒れたら、ちゃんと面倒をみてあげるつもりなんですか、と厳しく責められました。私は困ってしまい、「あのね、夫婦というのは、どちらが先に倒れるかわからないから夫婦をやっていられる、万が一のときにはよろしく、と思うから、夫婦愛がお互いに育っていくんじゃないかな」と答えました。あの女性は理想の男性と結婚したのかしら、と今でも思いだすことがあります。

 

 さて、この映画には原作があり、それを読んだ渡辺謙が感動して、ぜひとも自分の手で映画化したいと原作者に手紙を書いて説得したようです。渡辺謙自身が白血病を発症したことがあり、自らの体験をベースに前向きに生きる人生を描きたいという熱意があったのでしょう。とはいえ、自分の体験があまり強くなりすぎると、観客に演技を理解してもらえなくなる危険性があります。樋口可南子は、夫(糸井重里)と幸せな家庭をもっていると思います。しかし体験していないことでも、どうしたら観客を感動させられるかちゃんとわかっておれば、いい演技をみせられると思います。それが役者というものでしょう。役者は自分が悲しいときでも人を笑わせないといけないこともあるし、自分が楽しいときでも人に涙を流させなければいけないのです。

 

 この映画には悪役が出てきます。女性の性加害報道でいま世間から袋叩きにあっている香川照之です。佐伯(渡辺謙)の大切なお客さん役で、偉そうにふるまいます。香川照之はだいたい悪役を演じる役者でした。なにしろ事件が報じられるまでは「悪役の上手な役者」のトップクラスとの評判でした。映画の悪役俳優はたいてい、本当はいい人、といわれるのが普通なのに、香川照之は今回の事件で、演技ではなくて、地でやっていただけと暴露されてしまいました。「カマキリ先生」と子どもには好かれていたみたいですが、たいていの女性はカマキリが嫌いでしょう。銀座のクラブのホステスのブラジャーを脱がして遊んで、高給をもらっているんだからそんなことで騒ぐんじゃない、と高級クラブとキャバクラの区別がつかないほど酔っていたから、と謝罪したけれども、これまでの悪い行状が次々と明るみに出て、ついにアウトになってしまいました。父が歌舞伎役者、母が女優の浜木綿子、頭は良くて、芸も熱心に研究してようですが、酒を飲むときに取り巻きはいても、危機管理をするマネジャーもなく、奥さんにも逃げられ、そこらへんが不徳のそもそもの元なのではないかと思います。韓国に逃げるという噂が出ておりますので、あちらで反日の悪役をやると人気が出るかもしれません。豚草は双葉より臭し、でした。