なんとなく | 伊藤賢一オフィシャルブログ
なんとなくさみしい気持ちの本日ドクロ

冬になると思い出すこと書きます。

中学生の時の帰り道、S君の家のおじいちゃんから、

「あ…、い…、伊…藤く、君。か、柿持…って行き…な。」

と、S君の家の庭にある柿の木から、
取り立てほやほやの柿をもらいました。

「うあ!ありがとうです!」と私は大喜びして、紙袋に目一杯つまった柿を
S君家から自宅までの帰り道に食べる事にしました。

どこのスーパーの物かは分からない程ヨレヨレで柔らかい紙袋から、
美味しそうな赤オレンジの柿を選んでパクリ。

すると、歯医者さんで麻酔を打たれた後のような痺れが口の中一杯に広がりました。
渋柿でした。

生まれて初めて渋柿を食べたので、何が起ったのか分かりませんでした。

紙袋の中の違う柿に手を伸ばしまたパクリ。

渋柿でした。

また、違うのをパクリ。
渋柿でした。

紙袋の中の柿、全部をかじりましたが全てが渋柿でした。

でも、「なんだよふざけんじゃねーよ」とか、思いませんでした。
それよりも、明日S君のおじいちゃんに会った時に柿の感想を聞かれたら
どうしようか悩みました。

次の日の夕方、部活の帰りにS君の家でやはりおじいちゃんに柿の感想を
聞かれました。

私は正直に「なんか、渋柿だったみたいです」
と言いました。

するとS君のおじいちゃんが、

「ね。…」

と言いました。

そして、S君のおじいちゃんから、また柿を紙袋でもらいました。

その日、S君家から自宅に帰るまでの道中、確実なまでの渋柿を
紙袋から、一つずつ取り出し毒味をする少年の横を車が何台も通り過ぎて行きました。