宝くじ

 ある日、ある時、ひげおじさんは、ある星の宝くじ売り場でアルバイトをしていた。

 
 大統領は星始まって以来最悪の独裁者であった。人民は貧富の差が激しくその日の食事にも満足に有り付けない人もいた。
 
 大統領は大企業などから莫大なワイロを受け取り、地下の金庫には星の全ての金塊が眠っているとの噂だ。
 
 真夜中になると大統領は山と積まれた金塊を眺め、ヨダレをたらし、金の山を見上げ、鬼気迫る薄ら笑いを浮かべているとゆう話が、星全体に広がっているのだ。
 
         
       ……………………………………
 
 
 ひげおじさんは、この星で宝くじ売り場でアルバイトをしていた。彼が宝くじを売ると全てのくじが大当たりをするのだ。
 
 噂が噂を呼び星を一周するぐらいの行列ができ、警察が交通整理をして、順番待ちでテントを張って寝泊まりする人や、家を建て家族を呼んで住んでしまう人まで出てきた。
 
 その内、行列のところどころに街が出来、フランス料理、中華料理、寿司屋、ラーメン屋スーパーマーケットまで出来た。一攫千金を狙い、異星人まで住みだしエーリアン街も出来た。UFOが街の上空を明るく照らし、夜も真昼のようだ。
 
 あまりにもひげおじさんが売る宝くじで高額な金額が当たりすぎるため、自治体が破綻(はたん)をして、星一番の巨大銀行が破産をしてしまい、とうとう中央銀行もぶっ潰れ、造幣局はお札をする印刷機械が大爆発を起こした。
 
 この星にはお金が一銭も無くなってしまった。お金を発行する中央銀行もお金を刷る造幣局もなくなってしまったのだ。
 
 しばらくするとお金を見たことのない世代が育っていた。元凶わ宝くじを売る、あの、ひげおじさんだ。あいつを始末さえすれば星わ元に戻るのだと大統領は思った。
 
 お金のない世の中は、大昔の物々交換えの時代に戻っていた。宝くじは白菜や人参なで買うことができた。大当たりをすると焼き芋10トンが当たるのだ。
 
 焼き芋が当たったら約3ヶ月は、妙な臭気ともに空が黄色に染まるのだ。
 
 ひげおじさんは、のほほ〜んと涼しい顔で、美しい人が通るのを口をポカーンと開け、ニッコリと微笑んでいる。
 
 大統領が頭に来て「あのひげが悪いのだ」と怒鳴った。星の財政を滅ぼした重罪で、戦車が宝くじ売り場を取り囲み、「ひげ〜手を上げて出て来なさい」と大統領は大音量のスピカーで怒鳴った。
 
 なかなか出て来ないひげおじさんに腹を立て、戦車は一せいに発砲をした。宝くじ売り場の近くのビルは黒煙に包まれ、木っ端微塵〈コッパミジン〉に破壊された。
 
 真っ黒になり、髪の毛もひげも、チリジリになったひげおじさんが黒煙の中、宝くじ売り場でニコッとしている。「あのひげの馬鹿」と大統領は顔を真っ赤にして烈火のごとく怒りを表(あらわ)にした。
 
 戦車の砲撃にも、ビクともしないひげおじさんに、星最大の強力な大砲の玉をぶち込んだ。
 
 しかし黒煙の中、ひげおじさんは宝くじ売り場にニコニコとして窓から手を振っている?
 
 大統領は卒倒をした。
 
 冷静さを失い頭に血の登った大統領は、高官の必死の静止にも関わらず、ミサイルをブッ放パナシた。
 
 黒煙の中、ひげおじさんは宝くじ売り場で何事もなかったようにキョトンとしてあらぬ方を見ていた?
 
 大統領は烈火のごとく怒りを表にして「クヤジイィ〜」と地団駄を踏んだ。
 
 刈り上げで、太ってメガネの縁が顔に食い込み、気が狂った大統領は、日頃頭を押さえつけられていた政府の高官が命をかけて独裁者に猛反対をしたため、みんな牢屋にぶちこんだ。
 
 大統領は禁断の手段、水爆をひげおじさん目がけ爆撃をしたのだ?
 
 大きなキノコ雲が星全体をおおい、星は無残に無くなり、暗黒の宇宙空間に、ポッンとコウモリ傘をさし、ひげおじさんがチリジリになったひげと頭の毛でニコッと微笑み漂っていた?
 
 星の人々は、宇宙中の星々に爆風で飛ばされ、大統領の隠し持っていた金塊を抱き宇宙中の星にたどり着き、今はそれぞれ幸せに暮らしている。
 
 気の狂った大統領は、今だに水爆を抱え「あのひげ殺してやる」と叫びながら宇宙を孤独にさまよっている。
 
 ひげおじさんは「あの馬鹿」と口ずさみ、ホッとして、ニコッと、微笑んだ。
 
 
 
●コンピューターが調子悪く長らくお休みをして申し訳ありません。 次回は11(月)15(日)です。 またよろしくお願いします。
 
 
 
 
 
 
 

 

 



エーリアン
 ある日、ある時、ひげおじさんは、人類が誕生をした
500万年前、類人猿から分かれ二足歩行をするようになり
現在まで全てを見て来た。
 
   科学が発達をしていて地球から何万光年も離れている
ある惑星は豊かさを求め工業化を極端に進め、物質的に
は豊になったが、公害で星中の空気は汚れ、好戦的な国
々は使用が禁止されている核を使い戦争をした。放射能
で自然は壊滅され生物が住めなくなった。星を捨てて巨
大な宇宙船スペースコロニーを作り全生物を乗せ野山を
再現をして、もう何世紀も宇宙を彷徨(さよ)ってい
る。

 多くの国は自己中心的で、星全体の調和を考えず自分
の国の利益だけを考え、そのために核戦争をして領土を
広げたが近い将来、星の生物も人類も住めなくなること
が分っいた。国々が話し合い、貧しい国も豊かな国も資
源を均等に分け合い、自然を大切にして、平和で豊かな
環境を作るための計画も立てていた。その前に住む事も
ままならない事になり、星を捨てて宇宙を彷徨う事にな
ってしまった。

 宇宙船スペースコロニーに住み始め、しばらく経って
各国は星はかけがえのない唯一の物であり、いかに豊か
な環境であったか、心身共に健康を保ち、心の故郷であ
り自然は人々や生物を優しく包んでくれていた事を思い
知らされた。自分たちのトゲトゲとしたエゴを国々は深
く反省をした。

 人々は次第に自然や生物、動物、人間などにたいする
優しさと思いやりの心や、世界の国々が仲良くするに
は、トゲトゲを無くし人格を丸くすること、滑らかにす
るゆとりが大切なことも理解をした。だがもう遅いの
だ。

 丸い物は滑らかに何事も無くスルリとやり過ごす。ト
ゲトゲとした人や国はひっかかり相手を傷つけ、いがみ
合や争い事や戦争を起こす事も多いのだ。

 エーリアンが宇宙中を探しまわり、海があり大気が覆
っている気候風土の穏やかな星を探していたが自分たち
が住んでいた星と条件がかなうような惑星はなかなか見
つからなかった。そして人類が誕生をして350万年経っ
た頃、地球とゆう星を探し当てたのだ。

 エーリアンは地球になじみ、自分たちの優れた文明を
隠し、何世紀にも渡り宇宙をさまよった苦しさのため、
未開の地球の人々に適応をす事に必死に努力をした。地
球人と仲良く共同生活をしていくためには、永い宇宙放
浪生活で国や人々と穏やかに接するために丸い人格と滑
らかな思いやり、優しさが一番大切だと分かっていた。

 その時に地球に入植した生物は、現在一部は野山にし
げり、植物は森を彩り、動物は草原を走り回っている。

 地球の人たちは、穏やかで友好的であった。外見もエ
イリアンと地球人は共通点が多く、両者が違和感なくお
互いを素直に受け入れる事が出来た。そのため争い事は
皆無で、大陸のほとんどは手ずかずであった。入植をし
ても、地球人と何の問題も起きなかった。時が経つと共
にお互い力を合わせ協力するようになった。

 星同士は親密になるほど男女は恋をして結ばれる者も
出て来た。混血児はだんだんと増えて行き、2000年以上
経ったが、今や半分以上の人口はハーフになった。お互
いの長所を受け継ぎ仲良く暮らしている。

 今、ひげおじさんは、ニョークのタイムズスクエアに
ぼんやりと立っている。

 あれから150万年が達った。現在の地球人は皆、あ
のエーリアンとのハーフなのである。その事実は誰も知
らない。ひげおじさんだけが知っている秘密である。

 今、ビックバンから138億光年が経つ、広大な宇宙に
は直径19万光年もある大きな銀河や数千光年の銀河もあ
るそうだ。その銀河系が宇宙には1000億個あり、銀河系
には約2000億個以上の星がある。星の数は、我々の想像
を遥かに超えている。知性を持った生物がいる星があっ
たとしても不思議ではない。
 
 科学者は地層を調べ化石を見つけ研究をする。地球に
訪れたエーリアンの骨格が地球人と同じなので、未だに
化石は人類と認定されている。

 10万年前、人間はアフリカから世界に拡散されて行っ
たとされている。

 
 ハワイは日本から6430キロ離れているが、毎年8
センチずつ日本列島にマントルの力で近ずいているそう
だが、8000万年経つと日本の一部になる。もう飛行機や
豪華客船で行かなくても、日本中からドライブも出来る
し、徒歩でハイキングもできる。

 そうなると ”常磐ハワイ” は倒産をするだろう。社
長はその時のことを思うと心配で夜も寝れないのだ。今
夜も睡眠薬を鷲掴みにして口に放り込んだ。

 8000万年とゆう時間は気が遠くなるほど永いのだ。人
類が誕生をしてまだ500万年だ。その時まで人類が生存し
ているかどうかも分からない。常磐ハワイの社長さん
は、すごい心配性だなのだ。
 
 エイリアンと混血をした人類はアフリカ大陸から10万
年前に好奇心を押さえる事が出来ず、新天地を求め世界
中に拡散をして行って地球全体にそれぞれ住み着いた。

 エイリアンの遺伝は現代人にも残っている。エコール
ド・パリのキャバレー、ムラーンルージュのダサー、
ラ・グーリューの顎(あご)の長い事は知られている。
日本人にも有名なアントニオ・猪木さんとか、ジャイア
ント馬場さんがいる。

 エイリアンは三ヵ月のように少し顎がしやくれてい
た。

 ひげおじさんが500万年続けて観察をしてきた事に嘘
はないのだ。人に言っても理解されないだろう。気が狂
っていると思われるのは分かっている。だから口にチャ
ックを永遠にするのだ。

 個人でも国でも自分たちの事が何より最優先される。
エゴが現在でも生きている。貧い国を先進国が援助する
のは、常識である。優しさや、思いやりが人々も各国も
考えるようになったのは20世紀の終わり頃だ。もつと人
類が進化すると国も、星同士も思いやりの大切さをきっ
と理解する時が来る、と、ひげおじさんは信じている。

 思いやりと、少しばかりの知性があれば、個人や国同
士と宇宙の星同士も争いごともなく、にこやかに仲良く
出来るのだ。地球にはテロや極地戦争があるが、自分た
ちが絶対だとエゴを張らず、少し頭を冷やしてはどうだ
ろうか。

 現在ある神様は人間が自分達の都合で作ったものだ。
どうして信じる神様の違いで争いごとや戦争をするのか
不思議でならない。本当の神様は、人々の心の中にも住
んでいらっしやる。宇宙の外は果がないのだ。広大な暗
黒の空間が広がっているだけである。その空間では今で
もビックバンが起こり、新しい宇宙が生まれている。本
当の神様は宇宙を越えて果てのない暗黒空間もふくめ、
想像の出来ない大きな大きな心で、全ての世界を平等に
慈しみ、優しく抱き締めてくれているのだ。

 エイリアンと地球人の遭遇は、お互い人柄が丸く、潤
滑油が人々の関係を豊にしたのだ。争い事や戦争のない
世界をひげおじさんは切実に望んでいる。

 人々はそれぞれを慈しみ、明るい未来を想像すると、
思わず、ひげおじさんは、ホットして、ニコッと微笑ん
だ。


●次回は6月1日(木)です。







 

              

早朝

ある日、ある時、ひげおじさんは、早朝、ベットでウツ

ラウツラとして夢を見ていた。

 

 

改札口で可愛い女の子が黒くて丸い物をくれた。街を行

く人々にも渡している。

 

夢の中でベットの脇のサイドテーブルに置き、そのまま

寝てしまった。

 

 

爆音がした。女の子にもらった黒い丸い物が爆発したの

だ。町内でもボンボンと鈍い爆発音が聞こへて来た。ま

だ夢の続きである。

 

夢とはいへ爆弾とは知らなかった。顔が真っ黒で頭の毛

がチリジリになった。

 

テレビを付けた、安倍首相がススで黒い顔とチリジリに

なった頭の毛で、日本人の一億2000万人の平均的な

風貌は一夜で変わってしまったと、テレビで緊急演説を

していた。

 

幸い無傷であった。寝過ごした。出社時間に遅れる。い

そいで服を着てカバンを持って駅に走った。

 

途中で会った真っ黒の顔で髪の毛がチリジリの若奥様が

だっこをしているワンちゃん、ウェスト・ハイランド・

ホワイトテリアもススで真っ黒で毛がチリジリであっ

た。確かあの犬の毛は真っ白ではなかったか?

 

ひげおじさんは日本有数の大商社に勤めているのだ。

 

発車寸前の電車に飛び乗った。一息ついて満員の車内を

見渡した。皆ススで真っ黒の顔をして、チリジリの頭を

していた。大男がいた。白い顔で頭のけがチジレていな

かった。

 

よく見ると飲み友達の黒人のジョーであった。

 

オフィス街でみんな会社に急ぐ、誰が誰だか分からな

い、真っ黒の顔でチリジリの頭で早足で駆け抜ける。

先に行くのは課長のような気がする。オフィス街が仮

想大会になったようだ?今日はハロウィーンではな

い?

 

会社に着いた。入り口の彫刻裸婦像が真っ黒で頭髪は

チリジリであった?受付嬢も真っ黒い顔で髪がチリジ

リであった?ニコッと会釈をしてくれたが誰か分から

なかった?ひげおじさんもニコッと会釈をしたが、顔

が引きツッていた?

 

席に着いてカバンを置き回りを見渡した。社員全員が

顔がススで真っ黒で頭がチリジリであった。挨拶をし

たくても誰が誰か分からなかった。適当にみんなに挨

拶をかはした。

 

今日は朝一に社長に我が部の業績の報告があり。社長

室の扉をノックをした。中に入ると真っ黒な顔をして

チリジリの頭の社長がいた。挨拶をして報告をした。

笑いをぐっと我慢をした。社長の方が吹き出した。つ

られてひげおじさんも笑った。二人は机を叩き大爆笑

をして、お腹を押さえて笑い続けた。

 

笑い声は社内全体に広がり、社員全員がお腹を抱え爆

笑をして一日中笑い続けた。その日は仕事にはならな

かった。

 

帰宅の途中、相変わらずススで真っ黒な顔をして、チ

リジリの頭の人の人垣をすり抜け、ススで真っ黒でチ

リジリに毛の生えた電車を降り家に向かった。

 

ビルも道路も真っ黒でチリジリの黒い毛が生えてい

た。

 

見上げると雲も真っ黒でチリジリの長い毛が生えてい

た。しばらくすると黒い雨が降り出した。いそいで家

の中に駆け込んだ。室内も真っ黒でチリジリの毛が覆

(おお)っていた。

 

ヤケクそで着替えもせず真っ黒のベットにもぐり込ん

で寝てしまった。

 

ジリ〜ジリ〜と目覚時計が鳴った。ひげおじさんはパ

チと目を開けた。急いで洗面所に駆け込み鏡を見た。

いつものひげおじさんであった。ア〜ア〜全て夢で良

かったと胸をなで下ろした。

 

時間が無い、急いで仕度をして会社に向った。駅も会

社も何時もどうりで普通であった。ロビーの彫刻裸婦

像も何時もと変わらない「お早うございます」と受付

嬢に挨拶をした。彼女はニコッと微笑み会釈をした。

 

社長に呼び出された。ノックをして社長室に入った。

社長は顔が黒こげで、頭髪はチリジリであった。

 

社長はまだ夢の中に居るらしい。

 

笑いをこらえて屋上に行き大笑いをして腹を抱えて笑

い転げた。

 

何気なく街を見た。工場もビルとゆうビルも真っ黒に

ススケ、チリジリの毛が生えるていた。空を見ると雲

が真っ黒にススケいた。チリジリの毛が猛烈な勢いで

伸びていく。

 

街中がチリジリの毛でおおわれ、ひげおじさんの身体

に絡み付き身動きがとれなくなった。息が出来ない

「助けてくれ〜」と大声で叫んだ。

 

ひげおじさんは、夢の中で現実と夢とが混乱をしてい

る。まだ夢の中を漂っている。

 

何回もジリ〜ジリ〜と目覚まし時計が鳴っているが、

ひげおじさんは、のんきに夢の中にいた。

 

 

 

●次回は9月1日(土)です。

 




ランナー
ある日、ある時、ひげおじさんの目の前を全速力で走り抜ける
若者達がいた。一人は刑事もう一人は殺人犯である。二人は大
学時代、お互いに認め合う陸上100メートル競技の有望なラ
ンナーであった。

お互いのライバル心は強烈であったが。グラウンドをはなれる
と。何でも話す事の出来る親友だった。

なぜ正反対の道を進んでしまったのか?

二人はオリンピック強化選手にも選ばれた優れたランナーだっ
た。世界陸上、日本陸上選手権、大学陸上選手権で抜きつ抜か
れをした仲なのだ。

どちらかが10秒を切るかと噂をされた。日本最高のライバル
とマスコミは騒いだ。

刑事と殺人犯とゆう事を忘れ大学時代のランナー魂に火がつい
た。

炎天下のもと、満杯の歩道を人の頭の上を抜きつ抜かれつ全速
で走る。信号も無視して走る。回りの事は二人には目に入らな
い。ただ夢中で走り抜けた。

ダンプカーが二人に激突をした。

ダンプカーがクシャクシャになった。

禿げの人の頭を踏みつけ殺人犯の靴の跡がくっきりと残った。
いつまで経っても取れない。彼は死ぬまで鬘(かつら)をかぶ
り続けた。自分も禿頭に付いた靴跡のことは忘れてしまった。

走る、ただ走る。こいつには絶対負けられない。意地の張りあ
いだ。スピードは現在でも一流ランナーでも通用する力量だ。

かっての大学時代のライバルであった事が、頭をかすめる。

こんな立場で会いたくはなかった。

殺人犯は現役時代、足首を捻挫(ねんざ)をして、なかなか直
らなかった。彼は焦った。オリンピック100m競技の選考が
まじかに迫っていた。

それから彼の生活態度が変わり出した。なぜか自暴自棄になり、
付き合う友達も変わっていった。悩みも多かっただろう。つい
悪友の誘いに乗り、覚せい剤をやりだした。その内、陸上も止
めてしまった。

たまに道ですれ違うと、見るからにヤクザ風の仲間と一緒だっ
た。

彼に会い、もう一度グラウンドで会おうと、諭したが無駄だった
「俺の分も、お前が頑張ってくれ」と弱々しく呟いた、それか
ら会っていない。こんな事で顔を合わせるなんて、悔しくて唇
が震えた。

前方に何があるか見る余裕も無い。

そのまま二人は突き当たりの警察所の扉をドンと突き破り、ゼ
イゼイと息を荒げ床に座り込んだ。お互い最後の見事なレース
であった。

きっと世界記録を破っていたかもしれない。

こんなに全力を出し切ったことは今までになかった。殺人犯は
まだ現役当時の脚力が残っていた。

残念だ、あの時、もっと説得をしたら、と刑事は自分の不甲斐
無(ふがいな)さに首をうなだれた。

しばらくして正気に戻った二人は、お互いの健闘を讃えあい固
い握手をして肩を抱きあった。刑事は涙を流し殺人犯にガチヤ
と手錠をはめた。

もう一度あの頃に戻りたい。二人は堪えきれなくなり泣き崩れ
た。

学生時代に競い合った陸上競技場のトラックが一瞬脳裏をかす
めた。

青春時代の儚い思い出だ。

時間は時には素晴らしい思い出を残してくれるが、反面、耐え
られない残酷な面もあるのだ。

全て幻だったのかも知れない?二人はまだ涙を流しゼイゼイと
息を荒げしやくり上げていた。


ひげおじさんは、凄いレースを見て興奮をして手のひらから汗
が滴(したた)り落ちた。目には涙がにじんでいた。早く更正
をして欲しいと思い、ニコッと優しく微笑んだ。


●次回は9月15日(木)です。

深夜0時
ある日、ある時、ひげおじさんは、ある星の山頂にそそり立
つお城の管理人をしていた。蜘蛛の巣が張り、カビ臭いにお
いがして、湿気で壁はいつも濡れていた。冷気が全身をおお
う。

深夜零時になると大広間では幽霊の大舞踏会が始まる。軽快
なワルツを踊り出すのだ。シーンとして物音一つしない。音
楽も聞こへない。冷気がひげおじさんの頬をなぜて行く。ゾ
ーと背中に悪寒が走る。

実はこのお城は幽霊城として、この星の有名な観光名所なの
だ。宇宙中から数多くのロケットが深夜になるとお城の広場
に集まる。

観光客は幽霊の舞踏会を見て、その後、肝試しで城中を見て
回り、朝の5時頃には帰る。

幽霊は太陽の光が苦手なのだ。地獄のような苦痛を我慢をす
ると元の人間に戻れると言う伝説がある。

まだ苦痛に耐え人間に戻った幽霊はいない。

時々よぼよぼの老人がロケットに乗り遅れ、大広間にポッン
と立っている。ひげおじさんは生気を失った人間の姿が幽霊
よりも陰惨に映り恐怖を感じた。

ドキッとして気を失い目覚めると、窓から朝日が差している。
気が付くと先ほどの老人がボ〜と亡霊のように彷徨(さまよ)
っている。またハットとして気を失った。

幽霊より何倍も怖いのだ。

ある日、ある時、観光客のハンサムな青年が、美しい幽霊の
美女に一目惚れをしてしまった。

勇気を出して美しい幽霊にダンスを申しこんだ。美女の幽霊
と美しい青年のステップは軽やかに弾んだ。観光客は見惚れ
て華麗なダンスに見入った。

不思議な事に二人が踊ると優雅にワルツが流れた。それから
青年は何回も観光客として訪れた。彼女とワルツを踊るため
にとうとうお城に住み着いてしまった。ひげおじさんの仕事
を手伝ってくれた。青年は美しい幽霊と太陽が顔を出すまで
夢中でステップを踏んだ。

夢中で踊るあまり太陽の光にさらされる時間が長くなり、半
透明な幽霊の美女は、肌はジリジリと焼き爛(ただ)れ熱気
に絶えきれなくなった。このまま死んでしまうかも知れな
い。(本当はもう死んでいるのだ)苦しいがそれでも彼と踊
れるなら、儚い虹の霧のように消えてもかまはないと彼女は
思った。

深夜0時から始まる舞踏会も焼き爛れた彼女は観光客に異様
に映った。

彼女がどんなに醜くなっても彼の愛情の深さは変わらない。

彼女は激痛で地獄の苦しみを味わっても、その苦痛を乗り越
へ耐えるだけの価値のある彼がいる。

踊ると全身が痛い、彼はそれを知っていて優しく抱きかかへ
慰めの言葉が彼女の苦痛を和らげた。どんなに痛くても我慢
をして彼に抱かれていたい。

彼は、たとへ太陽の光にさらされ、醜くなっても彼の彼女へ
の愛は変わらなかった。自分のために我慢までして踊てくれ
る彼女を、より深い愛情で優しく包み込んだ。

彼女は地獄の苦しみを歯を食いしばり我慢をして人間に戻
り、彼と晴れてワルツを思いっきり踊りたい。毎日草原で苦
しくとも太陽の光を全身に浴びた。

いつも彼が隣にいて、彼女を励ましてくれる。

あれからずいぶんと時間が経った。少しずつ爛れは消えて行
った。それから彼と踊るたびに透き通るような乳白色の肌に
なっていった。

苦痛にに耐へた彼女は人間の姿になった。ただ声が出ない、
言いたくとも彼に愛の言葉も伝える事が出来ないのだ。

それは意地悪な魔女のせいだ。このお城に幽霊より長く住ん
でいるのだ。

魔女は意地悪をしてほくそ笑んでいる。

青年は魔女に剣を持ち立ち向かった。剣が魔女の身体を突き
抜けても平気な顔をしている。

ひげおじさんは天使が言っていた事をおぼろげに覚えてい
た。天国のバラの花に、日の出の前に宝石のように輝く水玉
が出来る。それを集め邪悪な物にかけるのだ、するとすべて
の悪が消滅してしまうのだ。

ひげおじさんと青年は天国に行き、毎日、日の出前に水玉を
美しいビンに貯めて行った。一回に集まる量はほんの少し
だ。何日もかけ、ようやくビンが露でいっぱいになった。

青年はバラの花の露を魔女目がけて、力いっぱいぶつかけ
た。

魔女は一瞬身をかはした。

魔女の後ろにいたひげおじさんがずぶ濡れになって消えてし
まった。「しまった」と青年は頭を抱えた。

大失敗だ。何処を探してもひげおじさんが見つからない。

山高帽だけが、石畳にむなしく転がっている。

ひげおじさんは、ヨレヨレになり天国にたどり着いた。

ひげおじさんはシワシワに縮んで手のひらに収まるぐらい小
さくなっていた。天使が集まり皺(しわ)を延ばし物干し竿
に干した。

乾いたひげおじさんに天使達がバラの朝露を頭かバシャと浴
びせた。

アッとゆう間に元のひげおじさんに戻った。

だが、ひげが無い。ひげの無いひげおじさんは、ひげおじさ
んでは無いのだ。

天使達は透き通る水玉をもう一度ひげおじさんの顔にかけた。
ひげがチョンと付いた。

しばらくするとコウモリ傘を差した、ひげおじさんがずぶ濡
れになり、大広間にヒラヒラと舞い降りて魔女に覆いかぶさ
った。

魔女はズブズブと溶けてしまった。ひげおじさんは颯爽(さ
っそう)と仁王立ちになりポーズをとった。

彼女は美しい声で彼に愛の言葉を囁いた。

深夜0時幽霊の舞踏会が始まった。きょうも観光客で足の踏
み場もない。大盛況だ。

観光客は午前5時になっても帰らない。

美青年と美女が正装をして大広間の中央で向かいあった。本
物のオーケストラがワルツを演奏をしだした。二人はを滑る
ように舞い踊った。

夜が明けるまで人々は甘いメロディーと舞うように優雅に踊
る二人に目を奪われ、時間の経つのも忘れた。幻想的で夢の
中で自分も踊ってる。

夢から覚めた観光客は日頃の煩雑さから解放をされ、夢見心
地で帰路についた。

ひげおじさんは、ホットして、ニコッと微笑んだ。


●次回は9月1日(木)です。