子供の頃、僕が聴いていたのは、テレビとラジオの音楽でした。
親にはクラシック・ピアノを習わされていましたが、僕が惹かれたのはローリング・ストーンズを始めとしたイギリスのロック、そのなかでも、ドラムの音に強く、強く、あこがれていました。
クラシック音楽にもピアノにも興味を持てなかった僕は、お稽古なんかそっちのけで、空き缶、鍋のフタ、目につくものすべてを手で叩いていたものです。
中学校に入ると、僕は両親にドラムを買ってほしいとねだりましたが、買ってもらえるはずもありません。当時ドラムは不良が持っているものというイメージがありましたし、何より、騒音が問題でした。ピアノは誰でも弾いていたので問題はなかったのです。
唯一、僕のおこづかいで買えたのがドラムスティックでした。
そのスティックで僕は、家中にある鍋の蓋をシンバル代わりに、あらゆる空き缶をドラムに見立てて、あるときは、その空き缶の上にビニールテープを張ってドラムの皮にしました。そして、テレビで音楽番組が放送されるときには、それらを叩きながら見るのです。
我流でしたが、ピアニストになった僕のピアノが、特にドラマーの人に気に入られることが多かったのは、このときに身につけたリズム感のおかげだと思います。
ドラムスティックを手に入れたのとほぼ同時に、ギターも始めました。こちらは我流ではなく、家庭教師の先生から手ほどきを受けました。
大学でギター部のキャプテンだったという先生は、僕に数学を教えてくれていましたが、それが終わると、ギターを教えてくれました。指使いや、ネックの握り方、弦の爪弾き方など、基本的なことは大体その先生に教わりました。クラシックギターなのでコードはありませんでしたが、そちらは、僕自身のベクトルがロックに向かっていたので、自然とおぼえてゆきました。
僕は、チャンスを見計らっては学校行事にギターを持ち込みました。ドラムステックを修学旅行にまで持って行って叩いたときには、さすがにクラスの友達にもドン引きされました。
このとき、僕はミュージシャンになるなんてことは夢にも思っていませんでしたが、体は、確実に音楽の方向へと向かっていました。