去る9月24日、書道界は、文部科学大臣に、「毛筆を小一から始めよう」という全国署名運動の結果報告を行った。全国から、95万人に近い署名が集まったという。
 もちろん、それだけではない。受験戦争との折り合いも大変だろうが、中学、高校の教育の現場でも、書道をもっと大切にしようというものでもある。
 この署名運動は、国内の主立った書道団体と、書写・書道教育にたずさわる団体とが、珍しく一緒になって、書写・書道教育を一層充実させようと、昨年来活発に動き出した活動の一環 なのだ。
 
 仮名書きの発明がなければ、源氏物語や俳句、和歌も生まれなかったろう。そして、それらの文学が日本に深く長く根付いたのは、その仮名書き文学が、美しく芸術的な仮名書きの書道で書かれたお陰だと思う。
 その意味で、「日本文化の原動力となってきた日本書道」とも言えると思う。書道が果たしてきた歴史的伝統を忘れてもらっては困るのだ。このままでは、世界に冠たる日本文化も日本の美意識も衰退しかねない。
 
 いやそんなことはない、心配し過ぎだ、と云う考えもあるだろう。しかし、文化は、意外と脆弱なものなのだ。
 勿論、戦争や暴力は、文化を破壊する。しかし、大陸では、戦争ではなく、文化大革命が文化を破壊した。伝統ある中国書法(あちらでは書法と呼ぶ)もそうだった。
 それを再生させたのは、ほかでもない日本書道界との交流だったと言えると思う。
 
 それは、イスラム世界のカリグラフィーをも刺激した。 日本の書道界は、中東まで出掛けているのだ。
 ネット動画で見ると、アラブの服装、床に広げられた数畳分はある紙、その両腕に抱えられた大筆(明らかに日本製)、その筆は下半分が墨色。その白い床上を、日本の書のデモンスト レーション宜しく、アラビアン・カリグラファーが走り回って、いわばアラビア書道を実演しているのだ。
 ドバイ、カイロその他でも、アラビア書道の国際展が盛んに行われるようになった。
 従来のグラフィック的あるいはデザイン的作品だけではない。壁にかけて見たくなるような、自由で芸術的な作品も沢山生まれている。
 さらに、IT技術に刺激されて、デジタル・カリグラ フィーも日本以上に盛況だ。
 
 欧米でも、日本に刺激されて、伝統の職人芸の世界から脱皮して、芸術的なカリグラフィーを創出しようという動きが活発になった。
 
 戦後一貫して、海外に出向き、書道の国際文化交流を続けてきたのは、 日本の書道界だけだ。中国、台湾、韓国もやらなかった。
 そして、毎日270件以上大型の大衆暴動が起きている中国で、そして、あの砲火の止まない中東で、書道が再生し、芸術的カリグラフィーが誕生しているのだ。
 
 本家本元の日本で書道が寂れて行くのを見るのは、悲し い。数ヶ月の署名運動で、これだけの人々が署名運動に参加してくれたのだ。心強い味方だ。この多くの人達の善意を無駄にしてはいけない。も う一度、日本文化の原動力でもある書道を、教育の場で、再構築すべき時が来たのだ、と思う。