今や、海外でも日本酒を少しは楽しめる世の中になってきた。その日本酒の味には、辛口、 甘口以外に、百種類以上の表現があるそうだ。確か40年くらい前だったろうか、某全国紙の文化欄にそれが掲載されていた。平成6年には 、NHKのラジオ番組「日本酒と私の酒造り」で、その一部が紹介されていたのも思い出す。
 フランスには、フランス文化以外は格下の文化だと内心思っている人がかなりいるが、中でもワインとくればフランス・ワインこそ世界最高だと思っている。そのフランス人が日本酒の表現は百種類以上あると聞くと、はじめて日本文化を見直してくれる。
 日本酒は、吟醸酒が出回るようになり、種類も極めて多種に及ぶ。焼酎も然りだ。しかし、まだ国内であまり知られていないものもある。「酒の華」と呼ばれ、杜氏の間で何世紀も密かに飲まれてきた蒸留酒で、製造中の樽に浮いた泡だけをすくって作る。大きな造り酒屋でも、何年もかけて小瓶1本にたまる程度だ。アルコール度は、大変高いが、 ほのかな上品で優雅な香りと味、そしてそのノド越しの良さは絶品だと思う。
 和食が世界中に広まったことも、日本酒の普及を助けている。今から50年前のロンドンには、和食の店は1軒だけだった。それも、中華料理店が片手間に出していた。それが今や数百軒もある。マドリッドの議会近くに ある回転寿司も連日盛況だ。
 一昔前、南米のジャングルの各所にある日系移住地を慰問した時、アマゾンで苦労しておら れた団長の方が「以前は、日本人は、生魚を食べ、ゴム草履で歩く野蛮人と言われた。今や、寿司は、世界のファッションにな り、ゴム草履も、日本人が履いているならと、はやり始めた。母国の台頭のお陰で肩身の狭い思いをしなくなった」とおっしゃった。
 和食は、その精神も含めて、ユネスコの世界無形文化遺産をめざしている。和食とあわせて、日本酒も国産ワインも、またカラオケからアニメまで、日本の現代及び伝統文化が世界中に広まり始めた。最初のジャポニズムは、明治時代に浮世絵や俳句に触発されたヨーロッパの芸術運動だった。今や第二のジャポニズム時代だと言っても良いのではないだろうか。