一気に行こうぜ!

四月大歌舞伎
四季〜夏 魂まつり
亭主:芝翫
若衆:橋之助
太鼓持:歌之助
仲居:梅花
舞妓:児太郎

京都の夏、加茂川の納涼床
大文字の送り火
その景色の中で若衆と舞妓の初々しい恋があって(互いに手も繋げないくらいのうぶさ)亭主や太鼓持そして仲居があれやこれ恋の取り持ちをしてくれるほのぼの景色となっていました。

橋之助も歌之助も体の動きは悪くないし、それぞれそれはきらいじゃないのですが、役者としての顔(私達と共有する顔)がまだ出来ていない硬さがあるように感じています。橋之助は恋の苦悩の表現なのだとは思うけどひたすらしかめっ面、歌之助は太鼓持の軽やかさはなく引きつって見えて。勿体なく思えました。その壁を突破していくのを楽しみにしています。橋之助の持つ雰囲気の柔らかみや歌之助の肉体の持つ厚みある切れ味(←そこに私は父親の芝翫さんを感じられるからかもしれない)に+役者としての『顔』が加味されたら表現者として一段上がったということになるのだと私は思っています。
私は彼らの父親に偏る気持ちをある種覚悟して固めてしまったので、多分母親のことも含めて表現者としてライバル視?もしてすらいて、応援する資格はどこかに放棄してしまっているので言葉に悩むけど。その壁を突破できる日はあればいいと思います。年がら年中おんなじようなしかめっ面ぶら下げられてちゃたまらん

児太郎さんは、初々しい初恋だろう舞妓よりも、百戦錬磨の強さを持つ鉄火な芸者のほうが似合いそうと思っていました。『神田祭』で芸者は出てるから被らないようにもしたのでしょう。髪の結方の種類も違うなくらいにしか言えない私ですがまあるい結い方濃いピンク系統の着物愛らしい姿でした。身体はもっところしても良さそうには思いましたが存在感のある愛らしさは頼もしく積み重ねた先にどんな花を咲かせるか楽しみです。梅花さんとずっとやり取りしている姿が嬉しかった。

講師のお仕事抱えてたり
色々心配だったけれど
芝翫さんは花道の登場のその背中がゾッとするくらい先代芝翫さんにそっくりでドキッとさせてくれました。そして出番は多くはないのにとても色っぽくて嬉しかったです。
若手たちと比較して(自然に)頭抜けた役者の格の違いを見せてくれていて圧倒的でもあり、ごちゃごちゃ理屈ばかり並べ立てても表現者としてはなにも伝わってこない人たちより遥かに、私みたいな頭の悪いのにはわかりやすくて良いなと思いました。いっそ突き抜けて笑えてくるくらい魅力的でした。
お父様が結局はやっぱり彼に一番力を与えてくれる存在なのでしょうね。

主題は『若者たちの初心な恋』なのでしょうが恋の取り持ちをする亭主の柔らかみ優しさ大人の余裕とともにその瞳の潤んだ輝きが面白く深く感じられて、ここには本来はないかもしれない『物語』があるような楽しさが生まれていました。彼の役者としての存在感と肉体に物語が生まれている愉快さなのでしょう。それにそんな潤んだようななやましい顔見たら通いたくなるしそんなお顔が出来るなら彼の『保名』も見てみたくなる。そんな雰囲気だったのですよ。
いつもは彼の手と袂の動きにめろめろになる私ですが今回は踊る彼の足の動きがおもしろくておもしろくて。亭主をつとめる人間の人当たりの良さそうな全体の柔らかみと踊りのときの足の捻りのようなもの印象的でした。彼のこの短い出番がつくづく勿体なく感じました。