昨日は滝沢馬琴がノンフィクションとして記したUFОの話
を書きましたが、今日は馬琴と同じく江戸後期の戯作者で
蜀山人という別名でも有名な太田南畝がノンフィクションと
して記した不思議な話を紹介します。
松平陸奥守忠宗の家臣で、番味孫右衛門という男がおり
ました。或る日孫右衛門が自宅で昼寝をしていると、突然
美しい天女が舞い降りて来たそうです。
その天女は突然、孫右衛門の口を強く吸い上げたというこ
とです。つまり、強引に情熱的なキスをしたわけです。ハッと
我に返って見回すと、誰もいませんでした。孫右衛門は、夢
かと思い込みました。
孫右衛門は非常に照れ屋だったらしく、その夢を人に話すの
が恥ずかしく、しばらく黙っておりました。しかしすぐにバレる
ことになります。
その夢以来、孫右衛門の口中からは、何とも香しい匂いが漂
い出るようになったのです。同僚たちは、「どんな匂い袋を含ん
でいるのだ?」と、訊ねてきます。勿論孫右衛門は何も含んで
おらず、原因はあの天女としか考えられません。
孫右衛門は、その夢の話を同僚に聞かせました。孫右衛門は
決して目立つような「イイ男」というわけではないし、特別何かが
優れているわけでなく、地味なタイプでした。天女に惚れられる
要素があるようにも思えないのですが、しかし
「だからこそ、天女なのかもしれないな」
「この世の者には理解できぬ何かがあるのだろう」
などと同僚たちは冗談を口にしたものの、その孫右衛門の話は
信じるしかなかったようです。
尚その孫右衛門の口から漂う芳香ですが、彼が死ぬまで消えな
かったということです。