「皮切りは女に見せる顔でなし」
というのは、江戸時代の川柳です。これは、お灸をしている
時の男の顔を指しているものです。
江戸時代のお灸は、よもぎの葉からつくったもぐさを皮膚の
上で焼き、その熱で病気を治療するというやり方でした。
途中から気持ちよくなるのですが、最初にすえる灸は猛烈
に熱く感じられ、それこそ「皮を切られる」ような思いでした。
そこで顔をゆがめたり歯を食いしばったりするのですが、そ
の顔は凄く情けないか逆に恐ろしい閻魔大王のようになり、
とても好きな女に見せられる顔ではないというのを詠ったの
が、冒頭の川柳でした。
従って最初にすえられるお灸を「皮切り」といったのですが、
今はその「皮切り」という言葉、平和に使われていますね。手
始めというような意味です。
確かに「手始め」ではあるのですが、良い意味でしか「皮切り」
という言葉は使われていないように思います。すでに江戸時代
にはそのような意味に、転用されていました。
お灸は最初の「皮切り」を耐えると、どんどん気持ち良くなり、体
調も回復します。そこから、ポジティブに転用されたのかと思わ
れます。「良薬は口に苦し」みたいな解釈でしょうか?
つまり、「手始め」というより「きっかけ」と言った方がより正確な
意味合いになるかもしれません。「・・を皮切りに打線が爆発し
た」とか「・・を皮切りに流れが好転した」といったような意味。い
わば、辛いことを乗り切ると良いことが待っている。最近の格言
にすれば「ピンチはチャンス」のような、或いは昔からあるもので
は「災い転じて福となす」の好例として、「皮切り」という言葉は使
われるようになったのです。