これは、『日本書紀』に記されている話です。舒明天皇の時
代、蝦夷が反乱を起こしたことがありました。
この時、上野の上毛野形名という豪族が、討伐に向かいま
した。しかし形名は大敗して、砦に逃げ込みます。それでも
たちまち、砦は蝦夷軍に包囲されてしまいました。
その時、遠くから盛んに、弓の弦を鳴らす音が聞こえてきま
す。凄まじい賑やかさでした。
この音を聞いた蝦夷たちは、凄い数の敵が押し寄せてきた
と思い込み、右往左往し始めます。
こうした相手方の動揺を見た形名率いる軍は、好機到来と
ばかりに討って出ました。すると動揺して集中力を失ってい
た蝦夷たちは、ちりぢりになって退却したそうです。
実はこの蝦夷たちの動揺を誘った音、形名の妻が夫の剣を
取って数十名の侍女たちを指揮し、弓の弦の音に似せた音
を鳴らさせていたのでした。
この妻の機転こそが、蝦夷鎮圧の最大の殊勲といえるので
した。