武田信玄の本拠である甲斐国は海がない上に山ばかりで農業
にも適さず、非常に生産性の低い土地でした。そのため、かなり
他国を侵略しました。というより、侵略せざるを得なかったようで
す。
しかしその他国の土地を部下に与えて完全支配することは、なか
ったそうです。
「どんな地域にも、必ず特性がある。その特性を無視して、いきな
り武田流の管理の仕方で臨むと、そこに住んでいる人たちが反発
する」
というのが、その理由でした。信玄によれば、人間というのは多く
の場合保守的になりがちで、今の生活を変えられるのを嫌がると
いうことです。だから武田家が強圧的な態度を取れば、すぐに心
が離れてしまうというのです。
「人は皆、昔を恋い、初めを慕う気持ちを持っている。武田家が少
しでも乱暴なことをすれば、大きく伝えられ、前の主人の方が良か
ったということになる。人の心を掴むためには、やはり地域に伝わ
ってきた特性を重んずることが大切だ」
というのが、武田信玄の残した言葉でして、信念でもあったようで
す。
こうして信玄は、所有権を留保したまま管理面で非常に暖かい手
を差し伸べることを、常に心がけていました。そのため、制圧した
土地の反乱を受けることが、ほとんどなかったそうです。
それにしても武田信玄という人、今の時代にも大いに通じることを、
たくさん言い残していますね。