宮本武蔵の師匠として知られる塚原卜伝ですが、この人と武蔵
の間には、次のようなエピソードが残されています。
囲炉裏の前に座って火箸で火を起こしている卜伝が武蔵に、「ど
こからでも打ち込みなされ」と言いました。武蔵が木剣で打ち込む
と、卜伝は囲炉裏にかけられた鍋のふたをつかんで、武蔵の木剣
を受け止めます。
武蔵は木剣を必死に離そうとするけど、離れません。やがて卜伝
がふたを離すと、武蔵は大きくよろめいたということです。
このエピソードのようなことをやろうとして失敗するコントが、かつ
て流行ったことがありました。
ところで、「卜伝(ぼくでん)」という変わった名前にも、意味がありま
した。
この人は1489(延徳1)年、常陸国鹿島で、卜部覚賢(あきたか)
の次男として、生まれました。それからすぐに一族である塚原家の
養子となり、塚原姓となります。
ただ、卜部家というのは、剣豪の家系でした。鹿島の太刀の秘伝
が伝わり、鹿島中古流と名乗っていました。
卜伝はこの流派の修行をしておりまして、「卜部家の剣術を伝える」
という目的から、「卜伝」と名乗るようになったとされています。