建武の新政から南北朝時代までを記した軍記物語『太平記』
に、次のような記述があります。
「五百余騎にて矢矧(やはぎ)に出張(でばり)して道を差塞け
る間・・」
矢矧に出向いて、五百余騎の軍勢で道を塞ぐ間に別の軍勢
が別な場所から攻め入るという作戦でしょう。それに、「出張」
という言葉を、使っています。そして、「でばり」と読ませていま
すね。
このように、別な場所や地域に出向くこと、遠征することを、出
張と呼んでいました。
また、本城から離れた別な場所に建てた城や砦そのもののこ
とも、「出張(でばり)」と呼んでいました。つまり、主に戦で使う
言葉だったのです。
現在は「出張」と書いて「しゅっちょう」と読みますが、それもこの
「でばり」から変わったものだと思われます。
江戸時代になり、戦のない時代になると、この「でばり」の意味
も、柔らかくなります。遠征はなくなり、他の土地に仕事などの
公用をすませに行くことに、使われるようになります。
そのうちに、読み方も濁音の入ったいかめしい響きを「しゅっちょ
う」と音読みにして滑らかなものにする言い方が生まれ、今日で
はそちらがほとんどになったということです。