小早川隆景といえば、戦国時代の名将の1人であることは、
間違いありません。その隆景が、天下を取った豊臣秀吉に
呼ばれて京都に行った時のことです。
彼は京都滞在中の経理を行なわせるために、或る商人を
雇いました。
その商人は節約にも気を配り、与えられた予算額を余らせ
て、返しに来たそうです。すると小早川隆景は、怒ったそうで
す。
「予算というのは、元々こういう仕事にはこれだけの金がかか
るという見積もりによって立てられたものだ。本来なら、予算
が足りずにこれだけの不足分が出ましたというものだろう。に
も関わらず予算を使い切らないというのは、よほど仕事に手抜
きをしたに違いない!」
小早川隆景はそう言って、金を突き返し、仕事のやり直しを命
じたというのです。商人は隆景の心意気に感動して、以後二度
と予算を余らせることはなかったということです。
この話、美談として現代まで伝わっております。確かに、悪い話
ではありません。しかしこの話を都合よく解釈した結果が、官庁
やお役所の悪習につながっている気がしないでもありません。
予算を翌年まで繰り越さず、年末になると無理矢理にでも使い
切り、赤字だとか国家の借金がどうだとか言っていますね。ど
うもその元祖みたいになっているのが、この名将・小早川隆景
のエピソードのような気がするのです。
時代が、当然の如く違います。また、予算の組み方も、違うはず
です。当初から、必要経費より余らせた組み方を、していないの
でしょう。むしろ少なめに組んで、どう活用するか、追加の要求
をどのようにしてくるかを楽しみにしていたのかと、思います。
この辺は、武士と商人の感覚の違いがあったと思います。また、
リーダーとしての器を見せて人を信頼させる意図も、あったはず
ですね。彼の人物像やこのエピソードに心惹かれることはあって
も、現代の予算編成に当てはめることは、出来ないと思います。