初めて牛乳を飲んだ日本人は、孝徳天皇だといわれています。それ
は、645年、あの「大化の改新」があった年です。
百済人の福常という人が、孝徳天皇に牛乳を献上すると、天皇は思い
のほか気に入り、以後宮中に牧場を設け、牛を飼育させたということで
すから、ものすごいお気に入りですね。
その後この福常は日本に帰化し、和薬使主(やまとのくすりのおみ)と
いう名前を授けられました。この名前からして、牛乳が薬として珍重さ
れたことが、わかります。また彼は、乳長上(ちのちょうじょう)という職
につきましたが、これは、牧場主のようなもの。牛乳づくりの最高責任
者ということです。
後の天智天皇の頃には、牧場や乳牛院の数も急増し、乳牛の飼育と
牛乳の生産は、活発になっていきました。
滋養豊富。豊かな薬効の貴重品として定着したわけですが、ただし飲む
のはもっぱら貴族だけ。高級だったのです。江戸時代に入っても、やは
り滋養強壮の品として生産は続きました。
やはり飲むのは主に将軍家。相変わらず高級品なのですが、1865(慶
応元)年に雉子橋門内の牧場で搾った牛乳の一部を江戸市中で販売し
たのをはじめ、少しずつ庶民が飲む機会も生じてきました。
ただし、完全に一般市民の間に広がったのは、1869(明治2)年、吹上
御苑で天覧乳搾りが行なわれた後のことです。明治天皇も御推奨だっ
たようで、その翌年からは庶民向けの牛乳の宣伝も活発に行なわれる
ようになっております。
こうした牛乳の長く由緒ある歴史、しかも、滋養強壮に効く、薬用でもあ
ったのです。今、手軽に飲めることを、感謝すべきかもしれません。今更
体に本当は良くないとか、太るなどという妄言を信じて敬遠するなんて、
罰当たりな話です。私は、子供の時から好きでした。