高校を卒業して、一度はやってみたかった一人暮らしというものを始めた。
一人暮らしを始めて、まず痛切に感じたのはありきたりだけど親のありがたみ。脱いだ服を脱衣籠に入れておくだけで、パリッと乾いた清潔な服が部屋に畳んで置かれているなんて、考えてみたらすごい事だったんだ。
実家住まいの時から自分の部屋の片づけや掃除くらいはしていたから、それは大して苦にはならなかったけれど。授業やゼミで疲れ果てて帰宅した時に夕食を自分で用意しなければならないのも結構つらい。
でも一人暮らしの気軽さは悪くなく、何かと心配して電話をかけてくる母には悪いけれど、卒業まではこの小さな学生アパートで生活することになるだろう。
天気のいい日曜日、洗濯物は早々にベランダに干して。今日はそろそろ提出日が近づいてきているレポートの類を片付けてしまいたい。ダイニングテーブル兼勉強机と化している小さなコタツ机に資料とレポート用紙を広げた。
そういえば、彼女は今日はいつごろ来るのだろう。昨夜、今日の予定を聞かれてレポートを片付けたいという話をしたら、じゃあ一緒にお勉強してもいいですか、と彼女は言っていたけれど。
そんなことを考えていたら、玄関の呼び鈴がなった。彼女だ。
「どうぞ、入って。鍵は空いてるから」
そう声をかけると、大きめのキャンバスバッグを肩から下げた彼女がドアを開けてニコリと笑った。
「おじゃましまーす」
1DKの小さなアパートが、ふわりと明るくなったような気がした。
「玉緒先輩のお部屋、いつ来ても綺麗に片付いてますよねー」
「そう?君が来るときは頑張って片付けてるからじゃないかな」
他愛ない話をしながら、すっかり君の定位置となったコタツの対角線上に君は座り、バッグから色々と教材を取り出す。どうやら今日は数学らしい。
「もー、氷室先生がすっごい難解な宿題を出したんですよー」
「ははは、でも解けない問題を出すような先生じゃないから。分からないところがあったら、なんでも聞いて?」
「はーい。よろしくお願いします、玉緒先生」
君はおどけてそう言って、コタツ机の上にノートを広げた。
一学年下の君と出会ったのは、君が入学して間もないころだった。大量のノートを抱えて職員室のドアの前で困っている君を見かけて、声をかけた。当時僕は生徒会長を務めていて、入学式の日に挨拶をしたのを君は覚えていて。それから、たまにすれ違ったりするたびに君は声をかけてくれるようになった。
明るくて気さくで可愛い後輩、その君に特別な感情を抱くようになったのはいつの頃からだったんだろうか。
向かい合わせに座って、それぞれのノートにペンを走らせる。カリカリという音と時計の秒針の音が、程よい雑音となって心地いい。
そうやって互いに自分の作業に集中して、どれくらいたったころだろう。コタツに入れていた足が、つん、と触れた。
「ん?どこか分からないの?」
すっかり自分のレポートに集中していた僕は、顔を上げて君にそう問いかける。すると君は顔を上げてニコリと笑って、首を横に振った。
たまたま足が当たっただけかな。そう思って僕は再びレポートに目を落とす。向かい合わせの君も、同じようにノートに目を落として再び課題へ集中していくのが気配で感じ取れた。
そうしてしばらくたって、また、君の足が、つん、と僕の足に触れた。顔を上げると、頬杖をついた君が僕の方を見つめていた。
「どうしたの?」
尋ねると、君は少し照れたように笑って。その顔を見た僕も、なんだか照れ臭くなって笑みを浮かべる。
「これが終わったら、どこか出かけようか」
「はい」
弾む君の返事。日差しの暖かい、日曜日の僕の部屋。君とのこの距離も、一人暮らしならでは、かな?
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1月19日は玉緒先輩のお誕生日!
誕生日とは全く関係ないですが、初書き(かな?)玉緒先輩SSです。
何事にもソツがなく、成績優秀品行方正な玉緒先輩。
でも家事がスゴイ苦手だったりとかしすると激しく萌えます(主がw)。
特に料理中に、鍋をひっくり返して慌てたりしてくれるとなお萌えます(主がw)。
何はともあれ。
お誕生日おめでとうございます、玉緒先輩(´∀`)