その少し先の幸せ | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 ふわりと風に乗って漂ってくる花の香りに僕は足を止めた。少し先を歩いていた君が、不思議そうに振り返る。あどけない小さな手と声で僕を呼ぶ。
「ああ、ごめん。さあ、行こうか」
 伸ばされた小さな手を取り、幼い足に合わせて僕はゆっくりと歩く。まだ僕の半分にも満たない小さな体で、君は僕を見上げて満面の笑みを浮かべた。

 こうして休日に君と過ごすのは何度目だろう。生まれて間もないころからよくうちで預かったりしていたから、君は僕にもよく懐いてくれていて。何かと忙しい君の父親の手助けになればと思って僕も君の面倒をよく見ていたね。
 かつての僕を知る人が今の僕を見れば、きっと驚くだろう。実際、かつてのクラスメイトと再開すると『ずいぶん丸くなった』と驚かれることが多い。そのたびに、当時の僕がいかに融通の利かない人間だったかがうかがい知れて苦笑を浮かべるばかりだ。

 君の父――僕の敬愛する従兄は、これまでもこれからも僕の指標であり目標だ。彼のようにまっすぐに正しく生きていきたい、とそう思いそう実行しきた。
 彼のように。思い描く従兄の姿はいつも毅然としていて正しく。そして僕も、それを模範として正義を貫こうとした。――相手の都合も考えずに。

 決められたルールを守る、それは当然のことだと思う。けれど、時と場合によっては使い分けなくてはいけないということを、僕はなかなか理解できずにいたんだ。
 押し付けるばかりの正義では誰もついてこない。それに気づかされるまでに、随分と時間がかかったように思う。
 さまざまな人と知り合い、共感したりされたり、反発を受けたり。そうしていろんな人から影響を受け、今の僕があるのだと思う。

『生まれてきてくれてありがとう』
 誕生日ごとに両親から送られたこの言葉の意味を、僕は本当に理解していたのだろうか。

 不意にある人物の笑顔を思い出して少しくすぐったくなる。
 周囲との衝突が多くなり孤立することも少なくなった高校時代、その笑顔にいつも救われてきた。正しいことを正しいと押し付けるだけが正義ではないと、彼女はゆっくりと僕に教えてくれた。
 彼女がいてくれたから――。

 僕より体温の高い小さな手が、くいっと僕の手を引き幼い声で僕を呼ぶ。考え事をしながら歩いていたから、いつの間にか公園にたどり着いていたようだ。
「うん、じゃあ少し遊んで行こうか」
 小さな手を開放すると、にっこりと満面の笑みを浮かべた幼子が砂場の方へ走っていった。

 思えば、僕が物心つく前から君の父親とそれこそ本当の兄弟のように親交を深めていたのも、僕と君の父親の両親が仲が良く幼いころから互いの家を行き来していたからだった。
 もしも――たとえば僕らの間に子供ができたなら、君とその子は僕と君の父親のような関係を築いていくのだろうか。そんなことをぼんやりと思ったとき、ポケットに入れていた携帯電話が振動して着信を知らせる。
 ぼんやりと照れ臭い未来予想図を描いていた僕は慌てて携帯を取り出し、着信者を見て思わずほほが緩む。


「もしもし。はい、格です。――今?うん、大丈夫。ちょうど君の声を聴きたいと思っていたところなんだ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


10月6日は氷上君のお誕生日!

と、いうことでいつものごとく急ごしらえ品です(;´Д`)ノ
「2ndでは2番目に好き」と豪語しているにもかかわらず誕生日に気が付いたのが前日の朝とか…。
いい加減にちゃんとしろ、みたいなwww

何はともあれ。
格くん、お誕生日おめでとう。そして生まれてきてくれてありがとう(*^▽^*)