モヤモヤ。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 最近、腹の辺りが何だかおかしい気がする。悪いモン食ったとか、そういう感じじゃねえ。何つーか、こう…モヤモヤしてるような、そんな感じ。

「あ、不二山、お疲れさま」
 ランニングから戻ると、いつものようにマネージャーが笑って出迎えてくれた。そして、その横には――。
「あ、お疲れッス」
 なぜか山のような洗濯物を抱えた新名が立っている。
「新名、なんでお前までそんなことしてるんだ」
「え?だってこんな山みたいな洗濯物、女の子1人じゃ大変じゃないッスか。俺らが出したもんだし。すっげー重いんスよ、これ」
「いつものことだから大丈夫って言ったんだけどね、新名がどうしても手伝いって言って…」
「あ、ヒドっ!俺の親切心、そんな風に言っちゃうんだ」
「だってー」
 あ、ほら。こんな時。なんだか腹のあたりがモヤモヤする。今日の弁当、変なもんでも入ってたんか。
「新名、10周プラスな」
「えっ!?マジでー?ありえねぇ…」
「ふふ、サボったツケだよ。新名がんばってね」
 がっくりと肩を落とす新名と、ケラケラ笑うお前。いつもと変わらない光景に、腹のモヤモヤも少しおさまったような気がしてそっと息を吐いた。



 洗濯物を干し終えたらドリンクの準備。ランニングの後は道場で受け身などの基礎練習をした後に組手・乱捕りと続く。部長である不二山はつい熱中して時間を忘れがちで、周りの人の体力を考えてあげる余裕もなくなる時があるから、うまく休憩のタイミングを入れるのもマネージャーである私の仕事。
 人数分のドリンクを用意して、汗をぬぐうためのタオルと、それから…と、準備したものを手近にあった大きめのかごに放り込んで部室を出る。プレハブ建ての道場からは小気味いい乱捕りの音が聞こえていた。
 がらりと扉を開けると、今日の不二山の相手は新名。不二山は絶好調って感じだけど、新名は少しへばり気味かな。だいぶ体力がついてきているとはいえ、不二山の乱捕り稽古はいつも激しいから、初心者では大変だ。
「不二山~、そろそろ休憩入れよう?ドリンク持ってきたよー」
「ん?そっか。じゃあ10分休憩な」
 声をかけると、ちらりとこちらを見てそれから時計を見やった不二山がそう宣言する。すると組み合っていた新名が不二山の手をするりと抜けて這うようにこちらにやってきた。
「マジ助かったぁ~。今日の嵐さん、手加減なしなんだもん」
「ふふふ、お疲れ様。はい、ドリンク」
「あんがと、生き返る~」
 私の隣にぺたりとへたり込んだ新名はドリンクを受け取るとそれをがぶがぶと飲み始めた。
「今日は不二山、絶好調みたいだね」
「あの人はいつも絶好調っしょ。不調なとこなんて見たことねー。つか、むしろ見てみたい」
「ふふ、そうだね」
 新名の言い分にくすくすとこみあげてくる笑いをかみしめる。道着の前を正しながらこちらに向かってきた不二山が少し不思議そうな顔をして私たちを交互に見た。
「なんだ?」
「ん、なんでもない。不二山もドリンクどうぞ」
 不二山にドリンクを手渡して、隣でまだ汗も引かない様子の新名と話していると、視界の端に不二山がおなかのあたりをさすっているのが見えた。
「不二山、どうしたの?おなか痛い?」
「ん、いや。なんでもねえ。ちょっと水かぶってくる。新名、10分後に乱捕り再開な」
「ゲッ…」
 にやりと悪い笑みを浮かべて立ち去る不二山と、隣で深々とため息をつく新名。いつもと変わらない、日常の風景。
「不二山、どこか調子悪かったりしないかな…」
「ん?調子悪いとこあったら、あんなにキッツイ練習できないっしょー」
「そうだけど…。最近、よくああしておなかさすってるんだよね。大丈夫かな…」
 そうつぶやくと、なぜか新名は堪えきれないように吹き出した。
「え?なんか変なこと言った、私?」
「あー、違う違う。でも、あれは…ねぇ?」
 くつくつと肩を震わせて笑う新名。何だかバカにされてるような気がするのは気のせい?新名の笑いはなかなか収まる気配がなくて、ちょっと面白くない。思わず新名を睨みつけると、笑いすぎてうっすらと浮かんだ涙をぬぐいながら新名がようやく笑いを収めた。
「ごめんごめん。嵐さんならむしろ絶好調って感じ?一緒に組手やってる俺が一番わかってるって」
「ならいいんだけど…」
 少し釈然としないような気もしたけれど、確かに練習中の不二山の様子はいつもと変わらない。なら大丈夫ってことなのかな、と納得することにした。



 蛇口の下に頭を突っ込んでジャブジャブと水をかぶる。新名と一緒に楽しそうにしているあいつの顔と、俺に話しかけてくるあいつの顔。どっちも同じあいつなのに、新名と話してるときは何だかモヤモヤして、俺に話しかけてくるときは妙にざわざわする。
 腹のあたり……つーか、もうちょっと上のほう?ちょうど胸のあたりか。モヤモヤしたり、ざわざわしたり。変な感じがする時は、いつもあいつが何かしている時のような気がする。
 頭からかぶった水を犬みてえにぶるぶると振るって空を仰いだ。夏の終わり、秋の初めのころの少し高い青い空。もう少し、あと少し。新名もようやくそれなりに鍛えられてきたし、俺も練習相手ができて格段に充実してる。こんなよく分からないモヤモヤしたものに、気を取られてる場合じゃねえ。
「よし、行くか」
 気合を入れるために口に出して呟き、プレハブ建ての道場へと足を向ける。新名と、そしてお前が待ってるその場所へ。









 ちょっともう、誰かどうにかしてって感じ。柔道以外は天然ボケの嵐さんと、これまた無自覚天然ないっこ上のマネージャー。俺から見てれば、二人とも気があるのは疑いようもないのに。
 二人とも天然だから、お互いに自分の気持ちなんて全く気付いてないんだろうなぁ。そんでもって、気付いてないのにキッツイ練習仕込んでくるのって、嵐さんカンペキやきもちでしょ、それ。
 けど、まあ…。柔道もちょっとは面白くなってきたし?何より、この天然カップルがいつ自覚して、どう進んでいくのかを間近で見れるいいチャンス。下手な恋愛小説読むより断然面白いっしょ、コレ。
 前からつるんでたダチ連中は『今頃柔道って、お前…』みたいなこと言うけどさ。案外悪くないって思うのも、きっとこの環境のせいもあると思うんだよね。
「新名!続きやるぞ!!」
「う…、押忍!」
 このキッツイしごきさえなきゃ、もっといいんだけどな。なんてね?


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9月8日は不二山嵐君のお誕生日ということで。
初書き嵐君です(;´▽`A``

8月中ごろの一回書いたものが、PC故障というトラブルとともに消失…。
うろ覚えのネタをもう一度書いてみたけど、やっぱり変わりますね。ははっ。

嵐バンビはこうやって新名にニヤニヤされながら見守られてるといいよ!

何はともあれ、嵐君お誕生日おめでとう!