あいつとの出会いは、海。 偽りばかりの日々に嫌気がさして一方的にあいつに別れを告げたのも、この海だった。
あいつの事が忘れられなくて会いたくて、どうしようもなくなって舞い戻って来て、あいつに想いをぶつけたのも、やっぱりこの海。
あいつとの思い出は、いつもあの青い海に繋がっている。
年越しを控えたある日の事。一緒に初日の出を見ようと言ったお前に、じゃあいつかの様に海の中から日の出を眺めようかと提案したら速攻で却下された。
「何でお正月から真冬の海に入んなきゃいけないの!?」
軽い冗談のつもりで言ったのに、ぷうっと頬を膨らませて本気で怒られた。在り来たりの日の出スポットに行くのじゃつまらない。だけど、そんなに良い場所を知ってる訳もなく。さんざん考えて、俺が選んだ場所は俺たちが初めて出会ったあの場所。
その場所を思い付いたら、もうそれ以外の所なんて考えられなくなった。だって仕方がないだろ?あそこは俺たちの出会いの場所で、はじまりの場所でもあるんだから。
大みそかの夜。初日の出を見に行くならいつ頃出かけるの?と聞くお前に、時間が来たら起こしてやると素っ気なく告げるとお前は見事に頬を膨らませた。その膨れっ面が可笑しくて噴き出すと、今度は思いっきり背中を叩かれた。
夜が明ける少し前に家を出て、目の前にある灯台を指差すとお前は呆れたような気の抜けたような顔で笑った。それでも、俺たちにとって大切な思い出の場所を選んだ事に不服はなかったらしく、素直に手を引かれるまま俺に付いてきた。
少し重い鉄の扉を開け、ひんやりとしたコンクリの建物の中を通り抜ける。バルコニーと呼ぶにはおこがましいような小さな展望台に、二人手を繋いで並んだ。
ゆっくりと水平線がオレンジ色に染まっていく。潮騒と、お互いの呼吸の音しか聞こえない。隣に立つお前は、白い息を吐きながら黙って海を見つめていた。
「…きれいだね」
ポツリと呟かれた言葉に、俺も小さく頷いた。手と手を繋いだまま、静かに昇る太陽を黙って見つめた。どのくらいそうして二人で立っていたのだろう。気がつくとお前は俺の顔をじいっと見上げていて。
「…何だよ?」
「ううん。何でここからだったのかなぁと思って」
「何でって…。お前が初日の出を見たいってウルサイから。それに」
ここは、俺たちが初めて出会った場所。そして、俺たちが互いの気持ちを確かめ合った場所。二人にとって節目となる思い出を作るなら、この場所以外に考えられないだろ?
そう言いながらポケットから小さな箱を取り出す。きょとんと大きな眼を瞬かせるお前の手を取り、その箱を握らせた。
「返品は不可だからな。ちゃんと渡したぞ?」
怪訝な顔をしたお前が俺の顔を見て、自分の手の中の小箱を見つめる。ゆっくりとそれを開け、中に入っている物を見て困ったように俺の顔を見つめた。
「……なんだよ、返品不可って言ったろ?」
「ちが、そうじゃなくて…。これ、どの指にはめたらいいの?」
「おまっ、そう言うこと、この状況でフツー聞くか?分かれよ!」
「だって…ちゃんと言ってくんなきゃ分かんないよ!」
ぷぅっと頬を膨らませたお前が上目づかいに俺を睨みながら小箱を俺に突き出す。俺は溜息をつき、首の後ろを掻いた。
「……一回しか、言わないからな」
そう前置きをして、小箱の中に納まっていたリングを取り出した。どこか不安そうに、でも期待に満ちた眼で俺を見つめるお前。天然で鈍感で、変に頑固だから手に負えなくて。でも、そんなところもいいなんて思える俺はもうどうかしてる。
寒さで凍えたお前の左手を取り、お前の眼を見つめた。幼いころから変わらない、真っ直ぐでキラキラした黒目がちの大きな眼。
「昔、ここで約束しただろ?必ず見つけるって、お前の事」
「…うん」
「ちゃんと見つけたんだ、俺の人魚を…。だから、もう離したくない。離れたくない。ずっと、俺の傍にいてくれ。俺、お前じゃなきゃ…駄目なんだ」
「……はい」
かじかんでひんやりと冷たい手、その薬指にゆっくりとリングをはめる。朝日を受けて微笑むお前の顔は、今まで見た中で一番綺麗に見えた。
「…寒!いつまでもこんなとこにいたら風邪ひく。ほら、早く帰ろう」
「うん、そうだね。帰ろっか」
帰ろう、俺たちの珊瑚礁に…。
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年賀状用SSアレンジ第2弾。
アレンジっつーか、元ネタ長すぎましたwww
はがきサイズに収めるのに大変苦労したという裏話は置いといて。
何とか1月中にUP出来て良かったと一安心(;´▽`A``