それは夏の所為。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 数日前から、あいつの様子がおかしい。おかしくなるきっかけは分かってる。だけど、その理由が良く分からない――。
 胡桃色の髪の後姿を眺めながら、俺はコッソリと溜息をついた。
「あら?お客様の前で溜息なんてつかないでよ、真咲くん」
 コッソリ吐き出したつもりのそれは、耳聡い同僚にしっかりと聞き咎められ。きらり、と眼鏡の奥で光る眼に睨まれて俺は肩をすくめる。
「へいへい」
「全く、もう…」
 ぶつぶつと言いながら接客に戻る有沢を眺め、そしてもう一度胡桃色の後姿をちらりと見た。有沢とのやり取りに気付いていたのかいないのか、一瞬だけ目があったように思ったけれど…。ふいっと視線を逸らされた事で、再び俺の気分は沈みこむ。
 ああ、もう。一体なんだってんだ。俺が何したってんだよ。そう詰め寄りたくなる気持ちを抑え、俺は再び小さく溜息を吐いた。

 多分、きっかけはアレだ。それは大学のゼミの連中に誘われて遊びに行った海での事。夏休みに入って間もない日、砂浜はうだるような暑さで。俺たちは泳ぐ事よりも飲んで食って騒いでて。底をついた飲み物を買い足すために、じゃんけんで負けた俺は財布片手にビーチを歩いていた。
「…あれ。真咲先輩?」
 聞き慣れた声で呼び止められ、振り返るとそこにはあいつがきょとんとした顔で立っていた。
「お、おう。どした?こんなとこで会うなんて偶然だな」
 実際、夏休みに入ったばかりで快晴だったその日、ビーチは大変な賑わいだった。あいつはいつもと変わらない笑顔を浮かべていたんだ。…その時までは。
「真咲先輩こそ、どうしたんですか?」
「お、俺か?俺はその、大学の仲間と…」
 場所が場所だけに、あいつも当然水着姿で。普段はそれほど意識しない白い肌や細くくびれた腰に妙にドキドキした。熱を持つ頬に、これはきっと酒の所為だなんて事を思ったりした。
 パステルカラーの可愛い水着はあいつによく似合っていて。こいつも女なんだなぁなんて思ったら、口が上手く回らなくなった。そんな俺に、あいつは小首を傾げて不思議そうな表情を浮かべた。
「真咲先輩?」
「お、おう」
 まいったな、なんて頭をボリボリと掻いた時。
「ちょっと真咲く~ん?こんなところで何やってんの?…あれ、これ誰?」
 一緒に海に来ていたゼミ仲間が戻ってこない俺を追いかけて来た。

 ……そして、多分この時からあいつの様子が変わったんだ、と思う。


 夏休みになったら色んなところにつれて行ってやろうと思ってたのにな…。あの日以来、あいつに誘いの電話をかけても素っ気なく断られるばっかりで。一体俺が何をしたっていうんだろう?
 理由が分からないから、対処のしようもなくて。俺はただあいつの顔色をうかがうしかなくて。
「はぁ…。何か、情けないなぁ、俺…」
 誰が聞くともない独り言を呟く。今日もバイトで遅くなったから送ってやると申し出たのに、それはそれは丁重にお断りをされてしまい。背後から刺さる有沢の視線が痛かった事この上なしって感じで。
 簡単なつまみを作って缶ビールを開けるも、さほど旨くもなくて。あいつの顔色一つで右往左往している自分が何とも情けなくもあり。本日何度目かの溜息を吐きだしたとき、携帯電話が軽快な音楽を奏でた。
『もっしもーし。真咲?オレだけど』
「ああ。何だよ?」
 電話から聞こえてきたのは、悪友の能天気な声。
『あっれー?真咲くん、何か元気ない?どしたの?またあの子の事でウジウジうじうじ悩んでたりする?』
「バッ…!ちげーよ!!それより何だよ?」
『ハハハ、どうだかな…。そんな元気のない真咲くんに良い情報を教えてやろうと思ってさ。明日ヒマ?海行かない?』
 ヒマ?と聞きつつコイツの場合は強制なんだよな…、と俺は内心溜息をついた。
『何かねぇ、良いものが見られる所があるんだって。一緒に行こうよ』
 やたらに嬉しそうな櫻井の声に、バイトの時間までならという条件付きで承諾した。



 次の日。どこか憂鬱な気分の俺を無視した、腹が立つほどの快晴。野郎2人で海なんかに行って何が楽しいのだろう、と思うほど櫻井は浮かれていた。
「ほらほら、真咲。早く行くよ!」
 そう言う櫻井は何故かビーチへは向かわず、違う方向へ突き進んでいく。
「お、おい、櫻井。どこ行くんだよ?」
「この先に良いものが見られる所があるんだって。この夏限定かもしんないから、行っとかないとダメでしょ」
 ダメでしょ、と言われてもどこにつれて行かれるのか見当もつかない俺は頷く事も出来ずにただ櫻井の後ろをついて行った。そして行きついた先は、…多分、何の変哲もない海の家、のように見えた。
「おい、さく…」
「いらっしゃいませー!……あ」
 元気よく声を掛けてきた店員は俺の顔を見るなり驚いたように眼を見開いて。よく見知った顔の登場に、俺も思わず固まってしまい。そんな俺たちの間に立っていた櫻井だけは1人きょとんとしていた。

「そっかそっかー。君が真咲の可愛い後輩ちゃんだったんだ。話に聞いてた通り、すっごい可愛いね♪」
 驚きも醒めやらぬまま、席についた俺と櫻井。ニコニコと能天気に笑う悪友を横目に、俺は頭を抱えてたい気分だった。
 夏休みに短期のアルバイトを始めたという話は聞いていた。けど、何だってよりにもよってそんな恰好で…。数日前に見かけたパステルカラーの水着にエプロン姿という何とも悩ましい姿に、頭が痛くなるような気分だった。
「しかもその格好、すっごい似合ってるね~。ね、真咲?」
「そ、そんなこと無いですよ。これはその…」
 とか言いつつも、頬を染める顔がどこか嬉しそうに見えるのは俺の気のせいか?ああ、何かマジで頭が痛くなってきたような気がする…。
 そんな俺の不機嫌そうな顔に気付いたのか、あいつの表情が少し曇ったような気がしたけれど。
「おねえさーん!注文お願いします!」
「あ、はーい!…じゃあ、先輩達、ゆっくりしていってくださいね」
 他の客から呼ばれて、あいつは慌てて俺たちのテーブルから離れて行った。


 閉店後のアンネリー。今日は遅番だった俺とあいつで精算やら閉店後の掃除やらをする事になっていた。昼間の事があってか、明りを必要最低限に落とした薄暗い店内に二人きりは何となく気まずい。
「あのー…、真咲先輩?」
 沈黙に耐えかねたのか、口を開いたのはあいつの方。
「おう。何だ?」
「その……何か、怒ってます…?」
「ん?いや、そうでもないぞ」
「ウソ。だって何だか今日はいつもと違う気がします…」
 確かに、昼間のあの一件から胸の内がモヤモヤとしてスッキリしない。気付かないうちに顔に出ていた、のかもしれない。
「その、私…先輩に何か怒られるような事、しましたか?」
 少し不安そうに見上げられ、俺は頭をボリボリと掻いた。スッキリしない原因は分かってる。けど…。
「いや、そんなことないぞ?お前はいつも通り、よく頑張ってくれてた」
「でも…」
「昼間もバイトだったんだろ?それなのによくやってくれてたよ。…そういや、何でまた短期のバイトを増やそうなんて思ったんだ?」
 話の矛先を逸らそうと何気なく思った事を振ってみると。あいつは何故か困ったような顔になった。
「…何だ?俺に言えないような理由か?」
「いえ、そんなんじゃないです。…最初は、知り合いに無理やり頼まれた形で1日だけって話だったんですけど…」
「けど?」
 あいつらしからぬ煮え切らない言い方に、自然と眉が寄る。そんな俺の態度を不機嫌そうだと受け取ったのか、あいつがますます困ったような表情になった。
「この間、浜辺で先輩と偶然会った日がありましたよね?あの日がその無理やり頼まれた1日だったんです。けど、良かったら夏休みの間続けてこないかって言われて…」
「それで、あんな格好でバイトしてたって事か?」
「あれは!その、あの格好したら時給アップしてくれるって…その…」
 尻すぼみになっていく言葉に、思わず苦笑が零れた。
「しゃーねえなぁ。で、何をそんなに急に稼ごうと思ったんだ?」
「それはその、真咲先輩が…」
「俺が?」
「いつも、私を子供扱いするから…」
 話の脈略がつかめずに目が丸くなる。眼の前のあいつは、何故か拗ねた風に口を尖らせていた。
「だって先輩、いつもどこか連れて行ってくれた時は色々おごってくれるじゃないですか!私だってバイトしてるから自分の分くらい払えるのに…」
「それは」
 だって当然のことだろ?こいつは後輩で、しかも俺は男で。しかもおごると言ってもいつもそんな大したものをおごってやっている訳でもないし。それが何でバイトを増やした事につながるのか、分からずに思わず首をひねる。
「私…その、この間先輩と偶然海で会った時に、覚えてます?先輩と一緒にいた…」
「ああ、そう言えば」
「あの時のあの人と先輩、並んでるのを見て何だかモヤモヤして…。その、先輩はやっぱりああいう大人な感じの綺麗な人が良いのかなぁって…」
「へ?」
「だからその、急にあんな風に大人っぽくなるのは無理だと思いますけど、せめて自分でできる範囲から大人になろうと思って…」
 と、次第に小さくなっていく声と反比例して赤みを増していくあいつの頬。これは、その…やっぱり、そう言う事、か…?
「あー…、えっと」
 真っ赤になって黙り込んでしまったあいつの名を呼ぶと、びくりと肩が跳ねあがる。俺の思い違いで無い事を祈りつつ、俯いてしまった胡桃色の頭を見つめてゆっくりと言葉を選んだ。
「それはその、つまりアレか?お前はその、俺に見合うようになりたいと思って…て事か?」
「う…」
 首筋まで真っ赤に染まったあいつを見て、俺の予想が勘違いでない事を知る。……マズイ。かなり、ヤバい。心臓がバクバクと高鳴るのを感じるとともに、頬が異常に熱くなっていく。
「…真咲先輩?」
 不自然に黙り込んでしまい、あいつがおそるおそるといった風で顔を上げた。
「あの、先輩?…顔、赤いですけど」
「い、いやっ、それはお前…」
 俺を見上げるあいつの顔が赤いのも、俺の頬が熱いのも。きっとこの夏の気温の所為、だけじゃないなとニヤける頬で思った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


mixi足跡9999番(だったかな…)記念の捧げもの。

キリ番を踏んでくださったのは、アメーバの方で私のSSをご愛読いただいててmixiまで追いかけてきてくれたというマイミクさん。

リク内容は、水着デイジーとの事でした。

リク頂いて真っ先に浮かんだのが水着エプロンwww
最初の発想が既におかしいという点で何かを間違えております(笑)

色々膨らみすぎて大変だった妄想を何とかこんな形にまとめました。

別方向で膨らんだ妄想は、いずれ何らかの機会に形にできればな―と密かに思ってますw


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