冬空の下で。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 窓を開けて空を仰いだ。そして小さく溜息を吐く。重たい雲に覆われた空は星一つ見えない。
「寒ぃ…」
 呟いた声は、白い息とともに夜の街へ溶けて消えた。不意にアイツの顔が浮かんできて、オレは小さく苦笑いを浮かべた。我ながらどうしようもないくらい、アイツの事でいっぱいだ。

 最初は、トロくさい女だと思ってた。でも笑った顔がちょっと可愛くて、微妙に話を合わせるのも上手かったりするからアイツと話をするのが楽しくて。オレの話に、いちいち驚いたり笑ったり感心したり。そんな些細なしぐさが嬉しくて。
 いつの間にか、オレの隣にアイツが居るのが当然のような気がしてた。アイツが傍に居ると、何もかもが上手くいくような気がした。どうしようもなく落ち込んで苛立って、自分の無力さや情けなさに消えてしまいたくなる時でもアイツの顔を見れば気分が落ち着いた。
 気が付いた時には、アイツはオレの『特別』な存在になっていた。

「あ、サボってる」
 からかうような声と、ふわりと漂うコーヒーの香りに振り返る。そこにはマグカップを二つ手にしたオマエが笑って立っていた。
「サボってねぇ。ちょっと休憩だ」
「ホントに?」
 クスクスと笑いながら、オマエはテーブルの上に散らばった譜面を覗きこむ。
「あ、こら。見るんじゃねえよ!」
 思わず慌てるオレに、オマエは一層クスクスと笑いだして。その笑い声が耳にくすぐったくて、オレもつい笑ってしまう。
「やっぱり、サボってたんじゃない」
「うるせぇ。休憩だっつーの」
 楽しげに笑うオマエが差し出したカップを受け取る。あったかくて、オレ好みな少し甘めのコーヒーを啜って再び空を見上げた。隣に並んだオマエも、同じように空を見上げる。白い息が二つ、夜の街に溶けて消えた。
「寒いねぇ」
「…ああ」
 しんと静まり返った冬の夜。少し身動ぎをすれば触れ合いそうなほど傍にいるオマエと、そのオマエが淹れてくれたオレ好みの甘めなコーヒー。ただ黙って並んで、空を見上げている。それだけなのに、心の奥が暖かくなるような、こそばゆいような、不思議な気持ちになる。
「ねえ、コウ。今はどんな曲を書いてるの?」
「ん?それは…あれだ、出来てからのお楽しみってヤツ」
 にやりと笑って答えてやると、オマエはまた楽しげに声を上げて笑う。
「ふふふ。すごい自信だね」
「おう!なんたってオレはロックの申し子だからな!」
 出会ってから何度となく繰り返してきた他愛のない会話。でも、きっと未だにこんな事を言えるのは他でもないオマエが傍に居てくれるから。どんな時でも、オマエがオレの傍で笑ってくれるから。
 ふと、オマエが空を見上げた。
「コウ、見て!ほら、雪が…」
 見上げると、重たい空から舞い落ちるように白い小さな粒が降り始めていた。
「明日の朝には積ってるかな?そしたら、ホワイトバースデーだよね!」
「ははっ!ホワイトクリスマスなら知ってるけど、ホワイトバースデーはないだろ」
「え~?良いじゃない、ホワイトバースデーがあっても!コウも雪好きでしょ?」
 子供みたいに頬を膨らませて拗ねるオマエは昔と何一つ変わらない。その無邪気さに、たぶん何度も救われてきたんだ、オレは。膨れっ面のオマエの肩を抱き寄せて、次々と落ちてくる雪を眺めた。
「ねえ、コウ。新曲が出来たら、一番に聴かせてね?」
「ああ。もちろんな」



 オレの中で溢れる色んな感情を、言葉を、メロディを。一つ一つ拾い集めて、真っ白な紙に吐き出していく。
 そうして出来上がったモノは、きっとオマエへの想いで溢れているから。だからいつでも、どんな時でも。オマエに一番に聴かせたい。
 それでオマエが笑ってくれたら、きっと上手くいく。そんな気がするから。



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12月19日はハリーのお誕生日。
という事で、一応ハピバSSです。

書きなれてない感120%と言った感じですが(笑)
ここ数日の寒さから、こんなSSになりましたσ(^_^;)