オレンジ色の願い。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 ざざ、ざざ、ざざ、ざざ……。

 どこまでも静かな海。素足に絡みつく波がくすぐったい。足元を波にさらわれながら立っていると、いつの間にか足はわずかに砂に沈んでいて。このままここに立ちつくしていたら、どうなるんだろうとぼんやりと考えた。
「いつまでそうしているつもりだ?」
 凛と声が聞こえ、振り返る。そこには、少し憮然とした顔のあの人。その手には、先ほど脱ぎ捨ててきた私の靴が揃えて持たれている。
「海水浴には、まだ早いだろう」
「ふふ、そうですね。まだ少し冷たいです」
 足元の海水を軽く蹴ると、水しぶきが夕日を反射してキラキラ光る。海が好きだ。しかも、大好きなあの人と一緒に見る海は。だから嬉しくて、つい走り出してしまった。素足に絡みつく波が心地よくて、彼のちょっと呆れた顔も何だか可笑しくて。
「一緒にどうですか?気持ちいいですよ」
「…全く。君は子供か。早く上がりなさい。体を冷やす」
 少し呆れたような口ぶりで言われ、しぶしぶ波打ち際から彼の元へと移動した。少ししょんぼりしていると、彼は小さくため息をついて。私の手を取り、それを肩に乗せた。
「…?」
 戸惑っていると彼は私の前に膝を折り、自然と私はあの人の肩を借りて立っている状態になる。私の足元に手を伸ばし、彼はいつもと変わらぬ口調で私に命じた。
「足を上げなさい。その濡れた足のまま私の車に乗り込む気か?」
 言われるままに片足を上げる。彼はハンカチを取り出し海水で濡れた私の足を丁寧に拭き、靴を履かせた。そしてもう一方の足も。
「あ、あの…」
 両方の足をきれいに拭き靴を履かせ終わった彼が顔を上げると、予想外に優しい笑顔を浮かべていた。てっきり叱られると思っていた私は、その笑顔に胸が締め付けられる。
「…さあ、帰ろう。そろそろ帰宅時間だ」
 彼がゆっくりと立ち上がる。その肩に置いていた私の手は自然と彼の腕を滑り落ちて行き、一瞬だけ彼の手が受け止めようとして…するりと空を掴んだ。彼の顔を見上げると、いつもの真面目な表情に戻っていて。くるりと向きを変える。
「急ぎなさい。予定時刻はもう過ぎている」
「あ。待って下さい!」
 すたすたと歩き始めた彼の背中を小走りで追いかけ、隣に並んだ。そして、その細くて長いきれいな指にそっと自分の指をからめた。一瞬、彼の手が強張ったので振り払われるかと思ったけれど、そのまま優しく握り返されて。嬉しくなった私が笑顔で隣の人影を見上げると、少し怒ったような照れたような顔で彼は正面を見据えていた。
「全く…。今日の君は、まるで子供だな」
「う…。すいません」
 調子に乗りすぎたかと思い手を離そうとしたら、キュッと強く握られてドキリとする。
「…いいだろう。今日だけだ」
 その横顔がまた優しい笑みを浮かべていて。オレンジ色の浜辺に、二つの影が寄り添ったように長く延びていた。

 いつまでも、こうして二人で居られればいい。言葉にはならなかったけど、それはきっと二人の願い。


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以前に若王子先生で書いたSSの氷室先生Ver。

初氷室先生はやっぱり難しかったですσ(^_^;)