川口先生が電話口にたった。みるみる顔色がこわばっていくのが見えた。やがて電話をおくと、職員室の先生たちの方をみて言った。

「先生方、すみません。うちの甲西香織が家を飛び出たらしいです」

 

近くの先生が聞いた。
「え、どうしたんですか。何があったんですか」



「ええ、それが、今母親から電話で親子喧嘩をして、母親がどうも暴力を振るったらしいです。それで、泣きながら香織ちゃんが外へ飛び出していって帰ってこないそうです。学校に行ってないかっていう電話でした」



職員室の先生方は席を立った。生活指導の先生が一人残っていたので分担を決めた。


「じゃあ、高学年の先生は運動場と学校周りを見て。中学年の先生は学校と香織ちゃんの家を結ぶ道を見て。残った先生はとりあえず、香織ちゃんがいきそうな場所、たとえば、デパートの方とか見てきて。なにかあったら学校に連絡して」




私はデパートの方をみにいくことになった。外は真っ暗で運動場に彼女がいるとは思えない。きっと家の近くの暗がりに潜んでいて次に明るいところを求めていくだろう。




私は我が子をしかって家を飛び出したことがあったのを思い出した。暴力は振るわなかったが、親子というのは時として言葉の刃で心を傷つけ、衝動的な行動を起こさせてしまう。

 

一人でデパートのほうに向かっていくと川口先生が香織ちゃんの家のほうから帰ってくるのが見えた。
「先生、どうでしたか」




「ええ、それが、お母さんに会って話を聞いたんですが、どうも香織ちゃんが言うことを聞かなくて家の中だとちゃんと話ができないからってデパートまででかけてその道々話をしていたそうですが、家に帰ったらついお母さんが手をだしてしまったらしいんです。


でもこの暗さでしょう。おまけに雨が降り出してるし、どうしてるんでしょうねえ」