玉容寂寞涙闌干

梨花一枝春帯雨



玉容(ぎょくよう)寂寞(せきばく)として
涙闌干(なみだらんかん)

梨花一枝(りかいっし)春雨を帯ぶ




その美しい姿はいかにも寂しげで、
涙がはらはらと流れるさまはまさしく、

一枝の梨の花に春の細かい雨が降りかかり、
しっとりと濡れている姿のよう




↑ こちら『長恨歌(ちょうごんか)の一節。



私は春に、
しっとりと濡れた梨の花を目にすると、
『長恨歌』のこの一節を思い起こします。


もし、楊貴妃(ようきひ)をイメージして、
花器に一枝の梨の花を生けるとするなら…

私は
霧吹きで花をそっと湿らせておくでしょう。


とはいえ、その独特の香りから、
日常で生けることはほぼないに等しい梨の花。

それでも、
春のどこか一日くらいは、ほんの数時間でも、

“花を客人として”
私の文房に特別に招き入れたい・・・




この『長恨歌は、

唐の第九代皇帝玄宗(げんそう)楊貴妃
“不滅の愛”を詠ったもので、

唐の詩人白局易(はっきょい/字は楽天/772-846)
玄宗の死後につくった長編詩です。


ですが…  白局易は、
詩中では一言も「玄宗」とは言っていません。

あくまで「漢の武帝」(唐よりも古い時代の皇帝)
悲しい恋の物語として描いています。


これは、

唐王朝、そして、天に最も近い存在である
皇帝の情愛に立ち入る”という、その振舞い、
その距離感に、

白局易自身
色々と思うことがあってのことでしょう…




平安時代の日本に入ってきたこの作品は、
日本文学に大きな影響を与えました。

とくに江戸時代の日本の文人たちは皆、
この『長恨歌』の文体を参考にしていたほど。






在天願作比翼鳥

在地願爲連理枝

天長地久有時盡

此恨綿綿無盡期



上の画像にあるこの四句。
これは『長恨歌』の最後の名句です。


別れに際してふたりが交わし合った
ふたりだけにわかるあの時“誓いの言葉”

「比翼連理」として知られていますね。



“天にあっては
願わくは比翼の鳥(それぞれ片方の翼)となり


地にあっては
願わくは連理の枝となりましょう”



天地は悠久といえども
いつかは尽きてしまう


でもこの悲しみは綿々と続いて
尽きる時はこないでしょう








“愛した分だけの悲しみ”
 

“尽きる時のこない悲しみ”
 

私はまだ知りません・・・
 


 
だから一層
 
この詩が私の心に響くのでしょうか・・・
 
 

 
 
辛丑 七月七日 深更
KANAME



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