この映画、十五年ぐらい前に、映画館で見たきり。21歳ぐらいだったかな・・・?

筋はほぼ忘れていたものの、いい映画だったという、実にアバウトな感想だけはインプットされていた。最近は、いい映画だったという感想が何年たっても残っているというだけで、すごいことだって思う。

もはや、それだけでもいんじゃないかって思うけどね…。でもこうして2回目を観たら色々思うことがあって、やっぱりいい映画だったなって再認識できて嬉しかった。

 

もちろん、主演が高倉健さんということも、お決まりのお相手役が藤純子さんだということも記憶にあり。ただし、その他のキャストの方は綺麗さっぱり忘れていた(笑)。宮園純子さんも報われない恋に苦悩するお嬢さんの役ででてらしたとは…。

 

健さんは、「暗い表情が似合っていて、かつ寡黙、とことん渋く」ではなく、二枚目半の役どころ。マキノ雅弘映画では、健さんはあくまでかっこよくて硬派でありつつ、ひょうきんというかちょっと間の抜けた母性をくすぐるような役どころが似合っていた気がする。

 

この映画でも、健さんによる、かなり笑える場面があったということ(だが具体的にどういうシーンで笑ったかは覚えていなかった)と、ラストの藤さんが日本に別れを告げて出ていく船上のシーンだけはこびりついていた。

まあ、当時はほぼ毎日映画を見ていて、結構雑な見方をしていたこともあり反省の限りだ。今は、一本一本をもうちょっと丁寧に、大切に見たいなーなんて気持ちになっている。

 

健さん演ずる、伊吹という男は、なんてたって男気がすごい。とにかく度胸一本筋だ。というか、この映画のタイトルにもある、「俠骨」って言葉、日常ではまず使わないもんな・・・。

 

つまり、インテリで頭が切れるというタイプではなく、金銭欲や出世欲が特別あるわけではないが、生きていく熱量だけはとにかくすごいのだ。

そしてこの手の映画ではお決まりだが、体力、けんかは誰にも負けない。そして、とにかくいつも一生懸命な人。朴訥としていてどんな時も仲間を大切にすることだけは忘れないので人望が厚い。直向きに真面目に人一倍の根性をもって与えられた仕事に向き合い、おまけに生一本の性格。

あまりにも頑張り屋で一生懸命働くので、出る杭は打たれるの典型で、思わぬトラブルに巻き込まれてしまうこともしばしば。体力勝負の軍隊の訓練でも、その後の人夫の仕事でもあまりにも一生懸命働くので周囲から浮いてしまう。ついにはそれが遠因で軍隊生活にも別れを告げることになり、一時はな、なんと乞食にまで落ちぶれるが、それを糧にしてなお一生懸命に生きようとするところが見ていて清々しい。

「真っ当に仕事をして生きていきたいんです」と、自分をどうにか雇ってほしいと、志村喬さんを真っ直ぐに見て訴えるシーンの美しいこと。これが高倉健さんという、スターの目なのだ。

 

そして何よりも、親孝行第一。生まれてまもなく父に死なれて、貧しさ故に8歳でお袋さんと離れ離れになり、その後は軍隊に入りそこからはお袋さんが亡くなるまで13年間、地道に仕送り。貧しさというものを肌で知っている彼は、ただ母に白いご飯を食べさせてあげたいという思いで、人の何倍も頑張り、懸命に一人前になろうと生きてきたのだった。この設定だけでも、泣かせる…。

 

それにしてもこの純朴で一途な青年の役、健さんしか絶対にできないだろうな…としみじみ。とにかくすごい説得力だ。清潔感っていうのか。素でやっている感じがするからすごいのだ。もちろん健さんの抜群のルックス、唯一無二スター性の素晴らしさありきだが、何と言っても演出力の賜物でもあろう。東映時代で、健さんの魅力を引き出すのがとことんすごいのはやっぱりマキノ監督だったのかなーなんて思う。石井輝男監督ともよく組んでたけどな…。

 

今回大笑いしてしまったシーンは、健さんが、突然のお袋さんの死に絶望し、軍隊生活からも自らの意思で決別してからのある日の夜、入水自殺を試みる。ジャンパーの中に石をいくつも詰めてそう決めたら早い、ものの数秒後にはドバンと川に飛び込んだ!だが暗くて深さをよく確かめていなかったらしく、あまりにも浅かった。まさかの膝下(笑)。さすがにそのレベルだと気づきそうなもんだが(笑)。呆然と立ち尽くす健さん。笑ったなー。多分このシーンで以前も笑ったのだと思うが忘れていたのだと思う。

 

ラストのカチコミシーンはやっぱりすごかったな。長ドスっていうのがほんと怖い。しかもそのスピードが健さんの場合本当に早い。正直、健さんの長ドスを使ったアクションシーンは、並いる映画スターの中でもずば抜けて迫力あったと思う。で、決まりの健さんの低音で唸るような感じで歌う歌が入って。

 

そしてこの映画の見せどころの一つでもある、健さん演ずる伊吹と、自らをだるま芸者とまで名乗る芸者兼娼婦とでも言うべき切ない役の藤さん演ずるフジという女性の悲恋。あまりにも切ない。この貧しい時代だからこそ生まれてしまった恋愛でもあろう。当然のことながら、今じゃまず考えられない悲恋の展開だな。

 

なぜお互い惹かれあったのに別れなければいけなかったかというのは明確で、あまりにもフジの顔立ちが、伊吹の実母にそっくりだったから。年恰好もおそらくドンピシャだろう。はからずも8歳という年齢で生き別れた母親は若いころの母のまんま伊吹にはインプットされている。もっと年老いた姿の母に一目でも会えていたら、この恋愛も成就したかもしれないのに。

いくら惚れた女性でも、母親を思い出させるその風貌は如何ともしがたく、母のような存在と恋仲になることはできない。どーしても躊躇われるのだ。「あんたって変な人ね」とい言いつつ半ば諦めているフジだったが、想いは募るばかり。だが、いくらフジがこの先思いを寄せても、叶うわけもないのだ。そうこうしている矢先、伊吹の仕事関係で問題が勃発。敵対する組の仕業で仕事ができない状態に追い込まれ大金が必要になる。

それを知ったフジは自ら彼の元を去ることを決意する。身売りして満州へ行くのだ。事情が事情なだけに、結ばれてはならない関係だと悟ってもいた。しかも自らが伊吹の母親のような存在であるかに振舞って。惚れた人が自分に亡き母の面影をを見たということを知って、それに殉じたいと願う、一途な女ごころだったのだと思う。縫ってあげた着物と、身売りして得た大金を置き土産として。すごい心遣いというか粋なことができる人だ…。そして満州へと旅立っていった。

 

あと、思い出したシーンが1つ。藤さんが瓶の牛乳飲むシーンね。3回でてくる。ああそうそう、この小道具っていうか、マキノ監督ってこういう小道具用いたシーン、めちゃくちゃうまかったなーって思いだした。