アンソニー・ホプキンスが好きだからというだけで手に取った作品。そうじゃなかったら、おそらく一生見なかった可能性が高い。

 

あの名優アンソニー・ホプキンスが監督・脚本のサスペンス?映画。それだけですごいなーって思って見た。しかも奥様のステラさんもご出演。

監督作はこれ一作というわけではなく、「8月の誘惑」でも監督しておられる。「8月の誘惑」は本作に比べるとジャンルがそもそも違うというのもあるが、ほぼラブストーリーだし、人間ドラマに主軸をおいた作品なので断然わかりやすかったし、アンソニー・ホプキンスの役も、アンソニーでしか演じることができないと思わせる素晴らしい役どころだったし、映画としても隠れた名作だと思っている。

 

この「スリップストーム」でも、主演かと思いきや(少なくともDVDジャケットは主演としか思えないものだった)、いや、一応主演ではあるものの出番はかなり少ない。最初と最後に顔見せ程度に出るぐらいの印象しか残らない。アンソニー・ホプキンスの作品は数十作と見てきて、その演技力のすごさはそれなりに知っているつもりだから、主演でなくとも、もっと見せ場となるシーンやセリフも増やしてもいいのではと、ファンとしては勿体無いなーという感想しか出てこない。

どうせ出演されるなら、もっとご自分のその最強の演技力を発揮できる役どころにすればいいのになーって。出るなら出る、出ないならでないで、かっちり決めた方が良かったんじゃないかなと。不完全燃焼というか、どう見ても、どう振り返って見ても中途半端な役どころではあった。この役、あのアンソニーがやる必要性があったのかとまで思ってしまうのだった。

 

まあ、サー・アンソニー・ホプキンスのそもその狙いは、私のようなボンクラにはわかりえないのだろう。飽きらめるより他ないってことだろう(笑)。

 

映画自体、分かりやすくはない。というより十分難解だ。一人の映画の脚本家の頭の中をのぞいているという体で、話は進んでいくのだから。それに気がつくのがある程度、物語が進んでからなのだから、余計わかりづらい。

 

所詮、ひとの頭の中なんだから、いろんな場面が脈絡なしに出てくる。しかもこの脚本家は、結構な神経質で、双極性障害もちということで、とにかく感情の起伏が激しく、極端な感じに陥りやすいというのか、とにかく物事が入り組んでいる。とりあえず混乱状態に陥って、やがて破滅するのが運命だったのか、なんなのかちょっとわからないが…。

ともかく、夢か現実か、もはや区別がつかないぐらいまでどちらにも激しく感情移入する人物のようで、かなり追い込まれているのだ。まあ、脚本家に限らず、一つの物語・一つの作品を生み出すとはものすごいことで、才能があるということは別にして、無から有を作るっていうのは、それだけで恐ろしいほどの労力がかかるのだと思われる。そもそもそれぐらいの追い込まれ方をしないと他人の心を動かすようなドラマやセリフは生まれないのだろうとは容易に想像がつく。

 

細切れのカット、錯綜するシーン、どれが現実でどれが主人公の想像・創作(いや、単なる妄想も入っているだろう)で、どれが今撮っている映画のシーンかというのを把握できていないと、ただ時間が無駄に過ぎてしまう。とてもじゃないがただぼーっと見てたらゴチャゴチャになって、何がなんやらわからないままジ・エンドになりかねない。

 

それでも、この映画、全くわけがわからないとまでは言わない。訳がわかるシーンも挿入されている。映画を撮っているシーンは何分か続くが会話のやり取りは面白かったし、セリフも面白いものがある。

映画撮影における「あるある」や、皮肉、暴露的なことも独自の視点で盛り込まれていて、業界人ならではの視点がある。正直、実体験も盛り込まれているんじゃないかと思う。キャスティングにおける独特のコネとか、くせの強い俳優の姿とか、誰が現場を仕切っているのかってなると必ずしも監督ではないとか。何かあったらいくらでも脚本は書き直せるっていうことも。アンソニー・ホプキンスの価値観みたいなものも当然、入っているのだろう。ゴルフはつまらないものだっていう考えとか、ウェールズ人には変わり者が多いよなっていう自虐ネタも含め。

 

そういう意味で、アンソニー・ホプキンスファンなら、アンソニー・ホプキンスの考えていることはどんなことであれ知りたいもの。そういう人なら見る価値はあると言っておこう…。ちと、歯切れの悪い感想になったが致し方ない(笑)。