10年以上前から見たかったけど、DVD化されておらず、名画座ですらかかることはなくいたずらに月日が流れ、ちょうど2年前の2021年に、ようやく東映さんがDVDを出してくださり、ようやく購入、鑑賞。まだ配信はされていないようだからレアといえばレア。待ったなー。ここまで待つ娯楽作品ってあんまりないんだけど。
なんでそこまでこだわるかっていうと、この映画の宣材写真や映画写真集だけはよく見ており、着流し姿で、文字通り刺青をど派手に入れた主役の鶴田浩二さんの姿に痺れてただけ(笑)。これが主人公のカシワギリュウジ。相変わらず名前も貫禄あり。「博奕打ち 一匹竜」の刺青師のアイオイウノキチと並ぶかっこよさの名前だ。
しかも、タイトルにもあるように「札つき」の博徒役なんだから、相当悪いヤツの役ってわけでしょ?どんだけラストですごい立ち回りしてくださるんだろなーなんて勝手に想像してた。実際のところ、札つきというほどのワルではない役だし、博徒というかさを被っただけの、むしろめちゃくちゃ善人の役なのがそこはいつものご愛嬌(笑)。あーそれにしても悲しい役どころ。
任侠映画も何年も続けばタイトルも枯渇してくるだろうから。
そういうわけで、もろ肌出して、かなり勇ましい感じのイメージの写真には惚れ惚れしたのだった。一口に同じ任侠スターとはいえ、流れ者のヤクザもの、土方よりのばっちり組織に属したヤクザ、博打打ち、組長と、演じる役は全く異なるので、髪型もその都度細かに変えるのが鶴田さんという主役俳優。
その点、高倉健さんや菅原文太さんは、ヤクザ映画のスター時代、ヘアスタイルをいちいち変えておられたイメージはほぼないけどね。
この作品では鶴田さんはオールバック。軍人役なら当然丸刈りで、短く切り揃えた男くさいヘアスタイルとか、はたまた角刈りとかも似合ってらしたけど、やっぱりこの長髪ヘアスタイルが個人的に一番好きだったな…。
今更というか、数年前にようやく知ったのだが、これは、鶴田さんの「博徒」シリーズの1本ではなく、「博奕打ち」シリーズの1本ということ。
「博徒」ってタイトルにつくけど、「博奕打ち」シリーズの9作目というのもちょっと意外。いろいろ事情はあるのだろうがそこのところはいまだに知らない。ま、そもそもシリーズとはいえ話は全て独立していて、主役も全部違う名前なので関係ないといえば関係ない。ともかく、これで「博徒」シリーズに続き、ようやく「博奕打ち」シリーズも全11作制覇。一安心(笑)。
映画自体は、北九州を代表する祭り、戸畑の祇園祭の開催の利権をめぐる、オーソドックスな任侠映画。と、言いたいところだが、任侠映画も終盤戦になると女性ヒロインが大活躍する。本作でもヒロイン工藤明子さんの登場シーンは多く、まさかの流れ者博徒として気風は男並み、アクションもやるわ、大活躍。やっぱりピストル持ちの女性は強いわ。東映任侠映画初期の頃なんかは、女優さんの役どころといえば、ヒロインとはいえ添え物で、情婦とか、芸者さんとか、女郎さんとかの役が多かったけどね。
藤純子さんが「緋牡丹博徒」シリーズのお竜さん役で、1968年からすでに爆発的にその人気を博していただけに、もはや女性ヒロインもアクションをガンガンこなすことが定番となったともいえよう。それはそれで時代の趨勢というか、一つの出し物、見せ場として面白い。
それにしても工藤明子さんの儚い感じの美貌は素晴らしかったな…。この時代の女優方
さんにしては珍しく細眉のメイクで独特のオーラがある。痩せ型でスタイルもいいし。鶴田さん相手にどっちも大人の男女の色気が迸る。もう出会った瞬間、なるようにしかならない関係っていうか…。ま、愛するとか、恋に落ちるとかそんな甘く生やさしいもんじゃなくて、もっと動物的なむせかえるような何かがあるんだよな。でも結局カタギになって将来共にしようと約束を交わしただけ。儚い。
準主役が、小池朝雄さん、山本麟一さん、天津敏さん。待田京介さんはカタギの役だから、そこまでおいしい役じゃないけど、珍しくこの時代に長髪で白っぽいスーツはカッコよかった。大木実さんは、人間臭ーい役だったな。恩人の鶴田さんを故あって邪魔者扱いしたりするけど、それでも心に傷を負っていて、最後には真実を打ち明けて死んでいくっていうなんともやりきれない役ではある。
ラストの殴り込みシーンはやっぱり想像以上にすごかったなー。その前の天津敏さんとの一騎討ちシーンはスローモーションとかも使って意外に凝ってた。手錠?みたいな感じの飛び道具を使われたりして大変だわ、ほんと。天津さんの役は七人殺しの悪役なんだけど、ちょっと無軌道すぎる悪ぶりでステレオタイプな感じだったのはちと残念。大勢の面前で恥をかかされたのが許せなかったのかもしれないが、そもそも鶴田さん個人にそこまで怨念を抱く役どころではなかったのだが…。
さて、ラストシーンにもどると、もろ肌出して匕首であそこまで激しく切り付けていくのはやはりすごい。長ドスより断然匕首の方が致命傷を与えるのは難しいと思うんだよなー。実際に扱ったことないからただの妄想だけど(笑)。長ドスより扱いやすいという長所はあれ。長ドスって間違った使い方すると折れそうだよね。
想像するだけで痛いけど、刃が短いからどれだけ強く刺しても体の奥まで突き刺さらない、急所を狙えばそりゃ早いけど、そうじゃない場合、何回も刺さないとダメだよな。
そんな匕首でバッタバッタやりまくるのがいかに難しいか。
鶴田さんの絶命シーン、あまりにも哀愁が滲み出ていた。美しい瞳とそのやさしげな目元がなんとも言えない。
私利私欲なしで、ただ生まれ育った故郷に息づく200年もの歴史をもつ祭りの伝統を守らんがために、たった一つの命をかけて凄惨に滅びていく。あーこれがまさに任侠ロマン、任侠映画のヒーローってやつ。なんてたって、たった一つの命を、男同士の約束、死んでいった仲間に対する恩義、自分の生まれ育った故郷の伝統を守るという、そういう数々の美徳のためにいとも容易く投げ出してしまう。これを正義のヒーローっていうとどうも軽々しくなってしまうが、娯楽映画の世界ならではのロマンだよな。凡人にはできるわけもない。
このシンプルさ、たまんないね。このなんてことないストーリーをここまで説得力持って、哀愁と悲しみを持ってして演じてくださるのは、やっぱり鶴田さんしか考えられないなー。人間が生きていく上での虚しさ、命の儚さまで感じさせてくれた。