小沢茂弘監督作品は、娯楽映画のツボを確実に抑えていて、主役の鶴田さんをどこまでもカッコよく撮ってくれるという点で、今まで観てきた数十作品、全部思い入れがある。どれも面白いけどその数多くのお気に入りの中でも、確実に上位に入れる。それぐらい気に入っている作品。

 

まず、見どころは、単なる任侠映画で終わらせなかった点。単にいいヤクザの活躍ぶり、どこまでもあくどいやつらをやっつけて、胸がスカッとするアクションシーンを描くに止まらない。もちろん、単なる任侠映画だって、大好きなんですけど。

 

主役の鶴田さんは、相変わらず義理と人情の狭間で悩む役。相変わらずその侠客ぶりにも拍車がかかっている。ヒーローぶりにスキがない。お袋さんを悲しませる見ず知らずの若い男に改心を促したり、喧嘩の仲裁をさらりとしたり、親分の命が狙われたとなれば、たった一人で敵の組に乗り込み、ばっちり指をつめさせる。親分の志村喬さんからの信頼はもちろん、子分からの人望も厚く、二代目は彼が継ぐのも目に見えていた。

 

そんなある日、たまたま女郎さんの身投げを見かけて無事命を助ける。ただこの一件が拗れる。命を助けたまでなら単なる人助け。それに彼の一家で仕切っている廓でのハプニングなんだから、当然の行いだ。

でも、あまりに悲しい生い立ちの彼女に同情し情けをかけ続けるうちに、単なる人助けで終わらず、渡世人としての自分の身が危うくなる。女郎役は松尾嘉代さんで美男美女コンビ。このコンビなら、いつもならメロドラマの始まりでばっちり色恋関係が生まれるんだが、今回は彼女が病身ということもありそうはならない。

もちろん女は男に心底惚れ込んでいるが、男は自分の女として惚れ込んだわけでもないのに、普通我が身の立場を犠牲にしてここまで世話をしない。それもこれも彼が情に厚いがため。人として優しすぎるし、人として正しい道を突き進むのは良いが、突き進みすぎるのだ。ここらへんの潔白具合が異色といったら異色。

 

だが、同じ一家で、自分より人望が厚い鶴田さんをやっかむ役の天津敏さんはじめ、天津さんの手下の者たちは二人の関係をただの色恋と片づけ、足抜きさせた罪を許さない。

そんな中でも、彼の渡世の道は外したが、一人の人間としては正しい道を実践したという心意気は、余命幾許もない親分にはしっかり伝わり、次のドラマが開ける。この辺りの展開も異色である。

人間として正しい道を身をもって実践した彼に親分は感動し、廓の経営をすっぱり止めると言い出し、一家を解散し皆にカタギになるよう促した。まさに一世一代の決断を下すのだ。

 

 

義理と人情の板挟みになりつつも、いつも自分の信念に従って、言い訳を一切せず、真っ直ぐに生きる鶴田さんの役どころをみていると、人間の生きる道というのは苦難しかないなってしみじみ思ってしまう。

何かあれば自分のつまらない身の上を心配したり、なんだかんだといい訳をして妥協してしまうことがいかに多いか。そんな私には、なんとも身につまされる展開だ。

 

意外といったら失礼だが、脚本が凝っている。いいヤクザと悪いヤクザの争い、勧善懲悪というパターンを基本に、凄絶なアクションを入れて、あとはメロドラマとか、カタギになるかならないかの葛藤、母恋しの人情ものを入れることに終始する作品が多いなか、それを超越して、人間として何か正しいか、どうすべきか、人として究極の理想とは何かとまでちゃんと踏み込んでいる。自分の常識、倫理観を試されている感じだし、哲学的とも言える内容だ。

 

そして何を置いてもこの映画、鶴田さんの魅力あってこそ。色気あるんだよなあ…。男の色気っていうのはもちろん、やっぱり女性たちがほっとかない色気が半端ない。今回も彼に惚れ込んだ若い女将さん(北林早苗さん)がいるんだけど、で、彼女はずーっと待っているんだけど、案の定、結ばれない。なんとも悲しいさだめだ。

 

鶴田さんがかっこいいのなんのって。当たり前なんだけど、どこまでもかっこいい。いつも落ち着いていて、静かに佇んでいるんだけど、時折感情的になる表情とかもいい。静かに怒りを滲ませる表情も精悍な整ったマスクだからこそ、美しい。いつもの着流し、白装束はもちろん、番傘も似合う…。その男っぷり、いや、漢(おとこ)っぷりがもうたまらない。ただの任侠ヒーローを超越した、真のヒーローだ。何やっても説得力がある。

 

珍しく最後の最後までこれといった凄惨な暴力シーンがないだけに、ラストの殴り込みの激しさには度肝を抜かれる。これは私が観てきた東映任侠映画の殴り込みシーンの中でも、指折りで印象に残った。

 

やっぱり、ラストの血水泥の成敗シーンがあってこそ。そうじゃないとこの時代の東映任侠映画を観たっていう気がしないというものあるから余計に興奮。

 

やっぱりすごい。タイトル通り、七人斬りだから、そこまで大勢をバッサバッサ殺すわけじゃないのでスローモーションにしたのはセンスありあり。血が噴き出るのがゆっくりなので、迫力が半端ない。鶴田さんの、ドスを突き刺す時の歯を剥き出しにした怒りの表情もしっかり見える。

そして何よりも、雨嵐の中殴り込みに行って、障子か襖かどっちかわからないがバーンと破壊されて、その瞬間容赦なく外の雨風が室内に入ってくるあたりの演出がたまらない。

その時すでに返り血浴びて赤く染まっていた鶴田さんの白装束の衣装が、雨に濡れてピンク色になってしまうのだが、それもまたいい。

それでそのまま外に出て、庭の中で雨嵐の中、金子信雄さんを成敗。いやーここまで激しい雨嵐の中のカチコミはあんまり観たことがなかったから新鮮だった。この時代、数多く任侠映画は生み出されたけど、こういうラストのカチコミシーンも、細部にわたってこだわっているんだなって改めて思った。