ずっと見ようと思っていた映画。理由は加賀まりこさん主演映画だから。何十年かぶりに映画主演をされるというわけで、それだけでもすごいこと。

 

代表作「月曜日のユカ」をはじめ、圧倒的な美貌を誇る女優さんとしての活躍ぶりはもちろん、年齢を重ねてからますます、強烈な存在感を残す大御所の地位を築き上げ、私も長年その芝居に魅了されてきた。

長くなるので控えるが、例えば、「極道の妻たち 覚悟しいや」には、冒頭にほんの顔見せ程度の出演なのに名の知れた大物極道の奥さん役としてすごい説得力と貫禄だった。ああいうたった数分で強烈な印象に残すっていうのは、まずスターでないと無理と何度も感慨深く思った。

 

バラエティ番組での歯に衣着せぬ発言や、雑誌などでのインタビュー記事から垣間見る少しギャップを感じさせる男前すぎるキャラクターもたまらない。とにかく加賀まり子さんファンは、この映画を外すわけにいかない。

 

結論、映画自体も良かったが、加賀さんの存在感を余すことなく味わうことができた。老け役をやってもやっぱりいい。

この映画、挑戦的な作品だ。見終わって監督の名前を覚えておこうと思った。失礼ながら最近の日本映画を見ても、監督名を覚えておこうということがほぼなかったからそれだけで私にとっては特別な経験だ。

 

というのもまず第一の理由は、なぜか雨のシーンがめちゃ多いということ。これだけもかなり実験的というか、なぜ?という感じがする。昼も夜も傘さしている登場人物、そして場面展開がおこっても雨は降りやまず。また、やたらゴミ出しのシーンが多いのだが、やはり雨がふったまま。

タイトルの「梅」の木もたしかに展開に絡んでくるし、何よりも超重要なファクターとしてちゃんと機能しているものの、それと同様にこの雨というのも気にかかる。

 

しかし例え映画になっても、雨というのは長く続くと人の気持ちをじとっとさせるものだ。世界のクロサワが雨のシーンで映画を引き締めたということは有名で、それを多くの著名監督がオマージュしてきたのは周知の事実だけど、あれは大雨でしかも一回こっきりだから引き締まるってわけ。話が逸れたがジメジメ降る長雨はかなり滅入ってくる。

 

映画の作り事態は全然陰鬱でもなく、むしろからっとしているので全然鬱陶しくもないし暗くはないのだが、それだからこそ雨って怖いなって思った。また今日も雨だ…って驚くよりも、ゾッとする感じ。

 

あとは、もちろん梅の木の存在。この使い方が見事。

庭からはみ出すほど伸び放題で、ご近所さんの通り道に迷惑をかけるほどなのに木を切らないというのが、タイトル通りテーマということもあり、深い。人が生きていくっていうのは、多かれ少なかれ他人に迷惑をかけるということ。もちろんできればかけたくないのが人情だし常識の一つだし倫理的感覚だけど、でもそうせずには生きていけないっていうテーマ。いくら時代が変わっても永遠のテーマ。

 

自分や自分の身内が、他人に迷惑かけて単に邪魔してるのはわかってるけど、そう簡単に止めるできない。いや、思い切ったことすればある部分は綺麗さっぱり、取り除けるのかもしれないけど、でも、少しは妥協できても自分にとっての「最後の砦」ってものがあり、そこだけは譲れないっていうことも確かにあるわけ。妥協=梅の木の梢を切ることはできる。でも、梅の木そのものをバッサリ切るわけにはいかない。

他人から見ればそんなもん簡単に取り除けるじゃないかということも、当の本人にとっては死活問題なのがこの世の常。でもって、もっと意地悪いのが梅の木で例えると、一旦木の梢を切って解決=まあまあ互いに妥協できたな、小休止になったって思っても、木がある限り、また新たな梢ってのは出てくるわけで。それがまあ人間関係の辛いところでもある。

一つの問題が解決したと思ったら必ずと言っていいほど、また別の問題がで出てくるのが世の中の常だよなあ。梅の木の梢だって、切られる前と全く同じ向きや長さで生えてくるわけはないんだから。もっといえば、人間って悩みなしでは生きていけない存在だから、側から見ると万事順調にいっているふうに見えても、どんな小さな問題でも悩みにしてしまう厄介な存在なんだよなあ。

 

でもその反面、ちょっとした考え方や捉え方次第で、その邪魔な存在に思えたものも実りあるものになるわけであって。これはもう発想転換すれば簡単な話。でもなかなかその発想の転換ってものはできないけど。

 

ちなみに映画では、この発想の転換を、梅の木から実がたくさんこぼれ落ちるっていうシーンで表している。迷惑かけて邪魔してる存在も、見方を変えれば全然迷惑どころか、自分に無害どころか、メリットをくれるものだったりする。実に深いのだ…。しかもそういう捉え方ができるのは大人ではなく、子供というがまた深い。

子供って、大人とは違う視点でものを見ている。頑固で、見栄っ張りで、つまんないことに限ってエゴが強い大人社会への皮肉かもしれないけど。大人はなかなか発想の転換はできない。あと、この映画に出てくる里村夫婦の男の子の純粋さがジーンときたな…。子供って肝心要のところでは嘘つけないんものだよなあなんてしみじみ思った。やることなすことが全て子供らしいってだけで涙(笑)。だから何しても許せる。このことに安心するのは私だけじゃあるまい。子供が子供らしくなくなったらやっぱり親や、近所の人の責任もあるよなあって。子供の住む世界、見ている世界って所詮かなり狭いからさ…。

 

このジレンマ。そういう人間関係の問題の根幹をちゃんと描いてくれているので共感しやすかった。

 

出演陣の皆様も豪華。高島礼子さんも出ていらしてびっくり。美人なのにちょっと陰気な感じの乗馬クラブのスタッフさん役。悪い役どころではないがいい役でもない(笑)。雰囲気的にどこにでもいそうな人の役なのに、でもここまで綺麗な人っていないよなと思わせる人。それがこの方の魅力。渡辺いっけいさんの役は愛想の悪い自分勝手な感じの役が、なんか世間ずれしている感じもあって違和感があったが、ちょっとばかりステレオタイプかなんて思ったけど、デフォルメが強かっただけで、徐々に人間臭い感じが見えてきてよかった。色々あってなんとなく愛想悪くなり、とっつきにくい感じの雰囲気がほうぼうにでてると思ったけど、も不器用なだけって思えたし、最後の最後で結構リアリティが出てきた。

 

冒頭に挙げた加賀さんがやっぱりいい。ハマりすぎている。ちょっと障害を抱えた息子を世話してきたお母ちゃんの役。華やかな美貌で、年齢を感じさせない加賀まりこさんに、お母ちゃんとか、お袋ってそういう言い方がはまらないイメージだけど映画になればハマるんだからやっぱり名女優。

 

あれだけ息子の生活ペースに合わせて一緒に暮らしてきたなら相当な包容力と、忍耐、胆力がある。だからそういう意味でこの役は肝っ玉かあさんと言ってもいいと思うけど、そんな気の強さを常時見せているわけではなく、気性のいい性格でありながら息子が迷惑をかけたと思ったら平身低頭して謝ることができる優しさと柔らかさみたいなものを持ってて、見ていて本当に気持ちのいい女性の役。息子のことはもちろん可愛いがっているけど、距離感は取れてて俗にいう親バカじゃない。あれだけ息子命の精神で生きてきて、いや、何もそう生きたいわけではなく、そう生きるしかなかった状況なのに、親バカにならずに入れるというのはすごいことだと思う。

 

息子も年をとって、自分ももっと年をとって、これからのことはたしかに心配だけど、それでも、ご近所さんの圧力っていうのは如何ともし難く、一度決裂したらそはまあ諦めて、前向きに生きるしかないっていうのが伝わってきた。

 

人生なるようにしかならないっていう諦観もあるけど、でもまた良いチャンスが来ないわけでもないんだから、それを期待して生きていくしかないよなって素直に思えた。それはとても後味の良い終わりだった。映画だからって、無理くりハッピーエンドとは違う。ここらへん、監督の手腕がすごいってことだよなあ。

 

占い師っていうミステリアスな職業をもっているところもハマっている。ピッタリだ。

年齢相応といっちゃなんだが、50才まじかの息子がいるお母さんの役というのがまあはまっていた。ま、逆算するとせいぜい70代の役ということになってるが、老け役に徹されてもはまっているのはさすがだと思う。もちろん加賀さんほどオーラがあって魅力的で綺麗な70代、どこ探してもいない。でもやっぱり似た人は絶対いるのなあと信じ込ませる説得力。