ずーっと前に、おそらく五年以上前か?DVDを購入しただけで満足していた作品の一つ。

 

余談だが、高倉健さんの養女であられて最後のパートナーでもあった小田貴月さんの認知度もかなり高まってきたわけで。これから一層テレビを始め、マスメディアでの露出も増えそうだ。

とは言いつつ、その先月発売の最新のご著書はまだ未読(おいおい…)。

さすがに前作「高倉健、その愛」は読了済みだが、結局私は映画の高倉健さんに一番興味があり惹かれるわけであって、そこは何があってもぶれない。ひとたび「高倉健映画」を見始めたが最後、映画の中の高倉健さんに夢中なので、健さんの普段の人となりとかプライベートがどうのとか、裏話を知っていようが、他のことは考えられない状態になる威力が健さんの映画には確かにある。

今まで健さんの何冊かのエッセイはほとんど読んできたし、交友があった業界の方が語る健さんのことも含め、雑誌やネットのインタビュー記事も拾える限り拾っているし、これからも関連本が何十冊出版されようが、参考文献として資料として全て読むつもりでいる。健さんがらみのことに関心はある。でも、一番の関心の対象は、「映画に出ている高倉健さん」なわけであり、それが全て。

 

そういうわけで健さんの出演作は出来うる限り網羅しておきたいので、とりあえずDVDは買っていたのだった。今回ようやく観賞。

生涯200本以上に及ぶ健さんの映画作品。1年ほど前に鑑賞済みの本数を数えたけど、あと数本で折り返し地点の100本に到達。これでも10年がかり。網羅の道のりは非常に険しい。というより、まだソフト化されていないものもあるみたいだ。

 

まずこの映画の静謐な感じが気に入った。ロバート・ミッチャムとの二大主演で、健さんがかっこいいのはもちろんだが、中年を過ぎたロバート・ミッチャムの終始渋く押さえた芝居もまたいいのだ。出過ぎない芝居っていうのかな…。静かで、劇中の待田京介さんからも「笑わない男」と言われている健さんの相手役にふさわしい。

ちょっとどころかかなり人生に疲れた感じも滲ませて、ものすごく静かな雰囲気がかなりよかった。ミッチャムの図体はめちゃくちゃ大きく威圧感はあるのに、いつもは眠そうな感じの目といい、いかつくないフワーっとした感じの顔立ちで、あのアンバランスさがまた味があるのだ。

 

中年に差し掛かる年齢になられた岸惠子さんも出演されていて、その美貌と存在感もよかった。岸さんはご存知大女優でもあるけど、その前にスターなのだ。二人の男に愛される女は、単に美貌と演技力を兼ねそろえた並の女優さんではとてもじゃないがつとまらない。あの悲劇の女性の役は、他の方では全然説得力なかっただろうなあって思わせる抜群の貫禄とオーラがあった。なんというか日本人離れしたエキセントリックそのものの雰囲気がある。フランス人のイヴ・シャンピ監督と結婚されてフランスでずっと生活されていたということを知っているから私の先入観も相当あるんだろうけど(笑)。

 

その他、敵対する組の親分役で岡田英次さんや、先ほど触れた待田京介さんもご出演。あとはおなじみの汐路章さんも。脇役中の脇役って、ほんのちょい役だけど、郷鍈治さんも出演されていてびっくり。スキンヘッドの頭に蜘蛛の刺青って、ほんと日本独特というかヤクザ独特の異様な怖さがある笑。

 

あと気になったのは日系アメリカ人の俳優さんたちの日本語がかなりカタコトってこと。あれはちょいとまずいかな…。違和感ありあり。ま、仕方ないかとも思うが。岸惠子さんのお嬢さんの役の方なんて、どう見てもアジア系というだけで、日本人の雰囲気がない。キャスティングがちょいと残念といえば残念。

ついでにもっと細かい話すれば、待田京介さんのクレジット。オープニングでは「KYOSUKE MACHIDA」だが、エンドクレジットでは「KYOSUKE MASHIDA」となっていた(笑)。

 

どうしても突っ込む箇所は確かにあるけど、日本特有のヤクザの生態を、上級編ではなく、入門編として描くにはこうするしかないんだろうなと思う。

ヤクザの掟、「指つめ」ってやっぱり外国の人からしたらほんと、異様だろう。日本人ですら、そのスジじゃない人に取っては、だただだ気味悪いものなんだから、当然といえば当然。だからそれを扱いたかったというのはわかる。でもロバート・ミッチャムにまでやらせちゃうっていうのにはびっくり。え、あなたは全然関係ないやんって突っ込んでしまうが、

でもまあそれだけ誠意とか、罪の意識を感じてますっていう詫びる真っ直ぐな精神を伝えたかったのだろう。よくいえばこの度肝を抜くパフォーマンスは、至極映画的な展開ではある…。

タイトルロールのザ・ヤクザというのは、なにも健さんだけを指すのではないのだった。

 

着物姿や、ヤクザ映画なので派手な刺青はもちろん、日本刀は絶対出さなければいけないし、そのほか茶道とか、色々日本的なるものはそれはそれはたくさん出てくる。それはご愛嬌。楽しむしかない。やっぱり映画で日本を描くとすれば、アメリカナイズされた東京じゃなくて、まだまだ日本固有の建造物や雰囲気が色濃い京都を存分にだしてきたいだろうし、和室での正座とか、鎧の装飾品とか、そういうのを見せたいんだから。京都で剣道の師範をしているのが、元ヤクザの高倉健さん。その役名が相当にありふれた名前で「田中健」ってのが、ちょっと笑えた。どうしても「た」を残しておきたかったんだろうねえ。ここまでウケ狙いなら、そのまんま高倉健という役名でも良かったかもなあっ思った。

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ヤクザが主人公のアクション映画には間違いないので、本家本元の東映任侠・ヤクザ映画のレベルを求めるのは間違っているけど、なんというかあの東映映画独特の生々しさがないのがポイントだ。東映任侠ものとってほんと陰気な映画はどこまでも陰気だからなあ。暴力シーンだって容赦ないもんなあ。

 

照明を暗くしたシーンを増やしたり、派手な芝居を俳優さんにさせないという点で、静謐な感じはかなり出ている。これはかなり魅力的であっというまにこの映画の世界観に浸れた。脚本だって、義理という、日本人の独特の精神を真っ向から扱っていて、わかりやすく描かれていた。

 

劇中の健さんの青のジージャン姿があるが、あまりデニムのイメージがなかったので意外だった。なんというか独特の着こなしぶりが凄い。ラストのカチコミは長ドスに渋い色のブルゾン姿。うーんやっぱりカッコいい。

脚の長さが際立つので、健さんには着流しより、こう言ったブルゾンにチノパンでのカチコミの方が似合うかもな。