ほぼ前知識なしに鑑賞。つい最近の映画だと勝手に思っていたが、他界された原田芳雄さんと、樹木希林さんのお姿を目の当たりにして、意外に前の映画だったのだなと今更のように気づいた。

お二方の存在感はいうまでもない。

 

●あらすじ

ある夏休み。町医者の次男で、子持ちの女性と結婚してまもない男は、実家に帰省する。その日は姉家族も帰省し、年に一度か二度の和気藹々とした賑やかな集まりになった。彼の兄は、跡取りとして期待されていた長男だった。だが、10数年前に海に溺れている子供を助けようとして代わりに死んだ。

最愛の息子を奪われ両親の傷が癒える訳もない。次男は自分より出来の良かった長男に負い目を感じることもあり、ことあるごとに長男の昔話をしたり、長男のことを話にあげる両親とはギクシャクすることも多い。

彼のお嫁さんは懸命に歩み寄ろうとするが、両親にとっては長男のお嫁さんと比べて劣るので、心の底からは歓迎されることはない。父はお嫁さんと面と向かって話しをすることを避け、母はあからさまに子供はどうするのだと尋ねた挙句、やめておいた方がいいとまで言う。

一家は、長男によって命を救われた子供を毎年家に呼び寄せている。うわべでは一家はしっかり歓待するが、母にとっては、本当は長男を奪われたやるせなさと恨みを背負わせ、罰を与えたい気持ちの方が大きかった。

自分の最愛の息子の命と引き換えに助けてもらったのだから、年に1回ぐらいは辛い目に合わせてもいいのだと容赦ない。次男は母親の魂胆を知り軽蔑する。父も人間に位をつけて上から目線でものを言うところがあり、フリーターで体型管理もままならず、どこかだらしない雰囲気で身なりもきちんとしていない彼をあからさまに嫌う。こんなやつのためになぜ跡取りを奪われなければならなかったのかと憤る。それでも一泊二日の帰省は終わり、

 

この映画、一言でいうと、実に重たい映画だ。真剣に見るにはそれ相応の気力、スタミナが必要。

間違っても、日々の生活に疲れて一休みがてら、ぼーっと頭を空っぽにして息抜きに見るような映画ではない。

神経を研ぎ澄ませて、自分のことに置き換えてみてこそナンボの映画だと思う。

ま、そんな大袈裟な心構えをしなくても、見始めたらすっとこの映画の世界観にひきづり込まれ、あっという間にエンディングを迎えた。それに重い映画とはいえども、クスッと笑えるシーンも多々盛り込まれており、ただ重いだけのどんより暗い映画なんかではないのだ。とにかく威力のある演出だった。

 

是枝監督の人間を見る眼差しはどこか冷めていて、厳しくもあり、突き放したようなところがある。上っ面のものは何一つ信じていないような感じがする。

所詮、人間っていうのは色々カッコつけたり、礼儀正しくしたり、場の雰囲気をよんんだりしてお互い気遣ってはいるけど、結局はせいぜいこんなもんだよなあいう綺麗事抜きの演出がどこまでも清々しかった。

人間というものの姿の深部に切り込んだ演出を目の当たりにした。

 

世間一般的ではいい人で通っていても、それはあくまで世間体。普段は隠しているだけ。一皮剥けば、欠点だらけのダラシないところがあるし、腹黒くて、いやーな一面を持っている。それが生身の人間というものだし、当たり前なのだと思う。

 

大抵の人間なんて、聖人君子には程遠いもの。本当に生々しくて、嫌になるけどそれがありのままというか、一つの真実の様に思えてくる。こうまで生々しい姿を突きつけられると、正直、人間を廃業したくなるぐらい落ち込む(笑)。

 

おこがましい言い方になるが、この映画を一本鑑賞しただけでも、是枝監督という監督がどれだけすごいセンスを持っていらっしゃるのかがわかった。

そりゃ世界的にも評価されるよなあと瞬時に納得する手腕を見せつけられた。

 

昭和の娯楽映画、ほんわか映画に慣れ親しみ、家族の団欒=幸せの構図を信じきっている自分にとってはこの映画は全く性格が異なる。家族の良い側面だけではなく、マイナスの側面をも容赦なく描いている。