二時間きっかしあったが、一気に観た。面白すぎる。

 

舞台は大正始め。

 

高峰秀子さん演ずる、おしまという女性のたくましい事この上ない。恵まれない生まれで幼い時からかなりの苦労をして育った女性。それゆえ人一倍忍耐強く、真面目な働き者という性分になってしまったのであろう。人生に対するある種の諦念、達観があるからこそ、何事も未練なくいじいじせず、きっぱりした態度をとる。女々しいという言葉がこの女性の辞書にはない。

 

「女だてらに〜」を地でいく女性で、とてもじゃないが、この時代の女性らしからぬ突飛な行動をしてみせる。意思ある女として、周囲の人間の反感を買いながらも生きていく。ここぞというときに言うべきことはしっかり言うし、商売も男並みかそれ以上に華々しく成し遂げるし旦那と取っ組み合いの喧嘩さえもする。彼女の旦那になった二人は、彼女の気の強さに辟易してしまう。最初の旦那上原謙さん、2番目の旦那加東大介さんも彼女の前では本当にだらしがなくうつる。1番目は相当女癖が悪く虚栄心が強い。2番目はグータラ亭主で仕事はできない、何もかもがだらしなく、どっちもひどい(笑)。

 

そして、そういう時、嫌なものは嫌ときっぱり言える女性であるには、お金を自分の手で稼ぎ、まず手に職をつけることが必要なのは今も昔も変わらない。彼女の機転の良さ、積極的な商売のやり方は、商人になるために生まれてきたような天性のものがアル。洋品店をやり始めてからは、自ら洋装で着飾ってビラを配りにいく営業もお手のものでとことんやる。

 

「男に振り回されたらだめよ、一人前にしてやるぐらいの気持ちでいかなきゃ」となじみの若い女性にハッパをかけるセリフに生き方の一つは集約されている。

 

時代設定では明治生まれの女性ということになるが、周囲を刮目される世渡りぶりは現代の女性とほとんど変わらない。

ただ彼女は何も好きで仕事をしているのではなく、生活のためにただ一生懸命真面目に働いている。そこが伝わってくるので見ていてとても健気な感じがする。映画を見ていればわかるが心根は優しい。何も好きで気が強くなったのではないのだ

 

仕事はちゃんとしているが、同時に自由に恋愛もしている。その恋愛はまた一途。ものの弾みで始まったような恋愛でも、本気になれば本物。お妾さんの立場は拒否しても結婚できなくてもいい、関係を続けたいと思える惚れ込んだ相手がいて2番目の夫と一緒になってもその思いを持ち続ける。森雅之さん演ずる男は彼女が惚れ抜くほどのいい男には見えず、かなり女々しいことを呟いたりしているが優しいことは事実。故にいつも気を張って生きている彼女を癒すもの、惹きつけてやまないものがあったのだろう。彼にとっては現実世界でいつも苦労し喘ぐ安らぎの象徴だったのかもしれない。住んでいるところも北海道という極寒の地で一人で頑張っていると身に応える。読むものが欲しいと言っていた彼女の一言をちゃんと覚えていて書物を渡すシーンは女心を掴む繊細さだ。それにしても突然言い寄って口づけをした時に庭の木々に積もっていた雪がどかっと音を立てて落ちる演出は印象的。いかにも映画的だ。

 

そして、逞しく気が強いだけでなく、彼女は筋目もしっかり通す、かなりの男気のある女性でかっこいい。恩義とか、道義とか、義理人情とか、失われた精神を当たり前のようにもっている。いくら事情があったとはいえ、2番目の旦那のように、借りたお金を踏み倒すなんてことは決してしない。

 

これだけ一生懸命、人の道を守って生きてきた彼女に不幸が来ないことを祈っていたが、無事にハッピーエンドを迎えることができて本当によかった。仲代達矢さんと一緒になるとにおわせる終幕だった。実に爽快。

 

あと、ラストの女同士が綺麗な着物姿で取っ組み合いをする画は、「極妻」シリーズぐらいでしか見たことがないので迫力があり面白かった。それにしても相手の女はなんとも恩知らず。加えてでっち上げた話で同情をひこうとするは、男に媚びるはで、ほんに救いようがない(笑)。