◆細野祐二『司法に経済犯罪は裁けるか』を読み解く

 

 

 

※要旨

 

・検察官が被疑者を逮捕すると、被疑者を24時間勾留することができる。
そこで被疑者は、逮捕の翌日に裁判所に連れて行かれ、
勾留裁判を受けることになる。裁判官が被疑者の言い分を聞いて、
さらに10日間の勾留を行うかどうかを決めるのである。
このようにして私は、平成16年(2004年)3月10日、
東京地方裁判所のとある小部屋で勾留裁判を受けた。


・あの日から四年の年月が流れた。
私にかけられた嫌疑とは
、私が公認会計士として関与していた株式会社キャッツの
平成一四年の有価証券報告書に虚偽の記載があり、
大手監査法人の代表社員であった公認会計士の私が、
その粉飾決算を主導したというものである。


・190日の勾留期間中は、
公判対策と英単語の習得に努めた。
英単語の暗記をしたのは、大杉栄の一犯一語を知っていたからである。
大正期のアナキスト・大杉栄は、
思想犯として幾多の逮捕・勾留を余儀なくされ、
そのたびに拘置所で外国語を習得していったという。
おかげで大杉栄はロシア語、
フランス語、ドイツ語、英語を次々とものにして、
その語学がその後の大杉栄のアナキスト生活の糧となっている。


・いつ果てるとも知れない拘置所の中での無尽蔵の時間は、
語学の習得に適している。
一犯一語の威力はまことに偉大で、東京拘置所を出た後、
英検一級や通訳案内士試験を受けたところ、難なくこれに合格することができた。
勾留されていたからこそ、
1万5000語と言われるこのレベルの英単語の習得に成功したのである。


・保釈で東京拘置所を出た後も、
私には厳重な保釈条件が付された。
私は知能犯で、罪証隠滅の恐れがあるというのである。
私はこの保釈条件を忠実に守り、
自宅と弁護士事務所並びに裁判所以外には、
区立の図書館に行くくらいで、
ほとんどの時間を公判対策と研究活動に費やした。
いくら東京地検特捜部といえども、
学問に保釈条件をつけることはできない。
私の研究は、私の専門である会計学から始まり、
経済学との関連研究に進み、
そして私の事件とのかかわりにおいて、
刑事訴訟法、刑法さらには憲法まで広がっていった。


・「それでは、なぜあなたはこのような嫌疑をかけられたと思うのですか?」
それは現行司法が制度疲労を起こし、
冤罪防止機能において、
構造的な致命的欠陥を内包しているからである。


・何と検察官は、いまどき特別法経済犯に対して、
旧態依然たるシナリオに基づく自白強要型の捜査を行い、
立件している。
経済犯罪の摘発にはそれに即した会計インフラの整備が前提となるが、
会計インフラがないままに経済犯罪を摘発しようとするため、
どうしても自白強要型の捜査にならざるを得ないのである。
それがまた冤罪を引き起こしていく。


・統計上、日本の刑事裁判に勝つことはほぼ絶望的である。
日本の刑事事件における起訴有罪率は九九・九%なのである。
この現実の前に、ほとんどの経済犯罪の容疑者とされた人たちは、
事実にかかわらず罪を認め、屈辱の人生を生きていく。


・いったん日本の司法に疑惑を持たれたら、
すべてはそこでおしまいなのである。


・それでも私は、自分の信念に従い、
無実を訴え続けることができた。これだけの弁護士報酬を払ってきたということは、
私にはその弁護士報酬が支払えたのである。
この間私は、継続的に公認会計士業務を行うことができたし、
手記(『公認会計士VS特搜検察』)を出版すれば、
それがベストセラーになったりもした。


・私は、何としても経済事件と司法の関係に、
誰もがわかるような倫理的解析を加え、
司法改革を実現しなければならないと思う。
私がやらなければ、他に誰もやる人などいない。


・想起すれば、経済犯罪と司法をめぐる私の思索は、
経済思想史から経済倫理へ、会計原理から経済事件分析へ、
あるいは冤罪原理から司法制度問題へと、さまざまな変遷を繰り返し、
挙げ句の果てには、
最高裁での再審請求が棄却された袴田事件研究にまで行き着いた。


・本書においては、
経済事件の背景には必ず財務諸表があり、
財務諸表が客観証拠の宝庫であることを論証するとともに、
財務諸表を深く読み解くことのできる会計技術こそ、
経済犯罪摘発の基礎インフラであることを主張した。
本文中では、捜査当局の会計インフラの習得を期待したところであるが、
それが非現実的であることもまた、
ここで言及しておかなくてはならない。


・学問としての会計学は複式簿記を前提としており、
複式簿記が実技科目である以上、それは体で覚えるしかない。
司法試験に合格した偉い検事さんが、今さらながら借方・貸方とやって、
電卓片手に簿記三級から勉強する姿を想像するのは無理がある。
証券取引等監視委員や経済警察は、
毎月のように公認会計士協会の会報上で公認会計士の募集を行っているが、
国費を使ってこれだけしつこく募集を行うからには応募が少ないのであろう。


・法律家に財務諸表が読めないのは、
何も日本独自の現象ではなく、
どこの国でも法律家は自ら複式簿記などやったりしないのである。


・単式簿記の理解しかなく、したがって、
無意識に清算会計で事実認定を行う傾向の強い裁判所もまた、
財務諸表上百パーセントあり得ない
損害額の嘘を見抜くことができなかった。


・司法が、会計がわからないことは何ら恥ずかしいことではない。
知らないことは専門家に聞けば良い。
わからないことを知ったかぶりをして、
わけもわからず国家権力を振りかざすことこそ神の前に恥ずべき行為なのであり、
それが有罪判決となって経済人の全社会的存在を抹殺してしまうのであるから、
事は深刻であろう。


・ここに経済事件と司法に関する実証研究に一応の終止符を打つに際して、
日本の司法におけるForensicの制度化を提言するものである。


・複式簿記
会計学は社会科学としての学問であるが、
その理論体系の基本には複式簿記原理がある。
ここで複式簿記は、英語やピアノと同様、実技である。
したがって、学問としての会計学を理解しようとするのであれば、
どうしても実技としての複式簿記を習得していなければならない。
すなわち、会計の理解には、
複式簿記の習得→会計学の学習というプロセスをたどる以外に方法はなく、
ここで前者と後者の順序を入れ替えてみたり、
あるいは前者を省略して後者だけの学習で会計を理解することは、
原理的に不可能である。


・このことは、いっさいの楽器を習得することなく
いきなり作曲を行うことが非現実的であるのと同義である。
ショパンやモーツァルト、ベートーベンからリストにいたるまで、
すべての優れた作曲家は、作曲家である以前に優れた演奏家でもあった。
実技としての楽器の習得にはおびただしい量の練習が欠かせない。
複式簿記の習得にも相当量の実習が必要なのである。
当たり前のことではないか。


・私は、現行の制度会計下における取得原価主義の意義と必要性を説明する。


・複式簿記で資産の購入取引を仕訳してみれば、
資産の取得に時価など何の関係もないことは体でわかる。


・時価はいったん成立した取得原価も修正機能を持つが、
それが資産の評価減として扱われるべき事象であり、
ここでの取得取引とは異次元の問題である。
これまた複式簿記による決算を行ってみれば、
体でわかることなのである。

 

・司法人は、
「しかし、結局この仮払金は貸付金だったのであるから、
それを仮払とした段階で隠蔽の意思が認定できる」
とやってくれる。
複式簿記による日常会計処理を理解していないため、
管理会計と財務会計の違いがわからないのである。
会計の目的は、その機能に応じて、管理会計と財務会計に区分される。


・複式簿記なき司法の会計は、
必然的に単式簿記になってしまう。
単式簿記は現金の入金と出金だけで記帳を行う会計であり、
要するに子供のお小遣い帳にすぎない。
単式簿記は、複式簿記という専門技術の習得を前提とすることなく、
誰でも理解できるという決定的な長所を持っている。


・複式簿記は、
継続記録による会計帳簿により財務諸表の作成と有機的に連動している。
複式簿記による継続記録を行えば、
記帳された会計帳簿により財務諸表が自律的に作成される。


・貸借対照表の作成時点で、
(継続記録による会計帳簿によらず)資産と負債を測定して貸借対照表を作成する手法は、
清算会計に他ならない。
したがって、素人の会計は基本的に清算会計である。


・もとより継続的企業の動態的把握を行う必要があるからこそ、
経済行為をいちいち借方・貸方に分解し、
それを要因別に計測記録するという複式簿記が不可欠なのである。


・そもそも貸付金と預け金との違いが
粉飾決算とされることなど人類の会計理論史上聞いたことがなく、
また、多くとも6億5000万円などというわけのわからない取得原価など、
複式簿記原理上ありえない。


・私は、事ここにいたった以上、
経済現象に対する法と会計の解釈方法の違いを解明する必要があると思いいたり、
研究を続けたところ、
両者は会計公準の破壊を認定するかどうかによって調整が可能なことを突き止めた。
単式簿記による司法の会計は清算会計である。
これに対して、
経済人の会計は、複式簿記による企業会計なのである。


・経済犯罪に対する司法判断の争いは、
究極のところ、
法律家と経済人の経済現象に対する解釈論の違いに行き着かざるを得ない。

 

 


※コメント
会計や経済を理解するのに
最適なテキストだ。
具体例が豊富なため、
臨場感がある。

 


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