こうしてまとめたレポートは、7月の面談から一週間後の7月12日に提出し、概ね結論に提示した流れで進めることになった。つまり、年内迄に一障がい者として企業に就職することで社会復帰を果たすという、王道ルートに沿うことを最優先事項とすることになったのだった。

 ただ剣崎は疲弊していた。あまりに事業所に長居しすぎたからだ。障がい者就労のための準備期間にしては長すぎるのだ。その長すぎる人生のモラトリアム期間の副作用が苦しかった。

 朝散歩や、マインドフルネスがメンタルに良いからと、朝の習慣として取り入れた。昼寝が午後のパフォーマンスに良いからと、昼の習慣に取り入れた。一日のポジティブな出来事を3つ書き出すポジティブ日記が自己肯定感を高めるのによいからと、夜寝る前の習慣に取り入れた。そうしたどんなにポジティブにメンタルを整えることができる習慣続けていても、頭の中はネガティブに支配されてしまう。

 周りを見渡せば、次々に事業所を巣立ち、社会の一員としての仲間入りを堂々と果たす仲間たちがいる。街中を見渡せば、ボタンダウンにジャケットスタイルや清楚なファッションを身にまとい颯爽と歩く人々が目に映る。SNSにアクセスすれば、人生に成功し財を蓄え、堂々と主張する人々が目に飛び込んでくる。ネガティブに支配されないようにするには、社会のあらゆるノイジーな情報を遮断するしかなかった。

 ただ、それは社会とのつながりを断絶し、天涯孤独に生きることを意味する。リタイアするにはまだ早い。なぜなら社会の一員として働いた後に、リタイアして天涯孤独に隠居生活を送ることは出来るが、その逆は難しいしリスキーであるからだ。レポートに書いたように、プランdからa,b,cへの移行が難しいのと同じことだ。

 今は就労移行支援事業所という、所詮人生の本番ではなく、ただファンタジーの世界で生きている。ただの飯事ままごとでしかなく、本当の自分を生きていない。でも剣崎は「剣崎が剣崎たるゆえんを証明するための何か」つまり、アイデンティティが欲しかった。その一環がモノ書き創作活動であり、今ではライフワークとなっていた。