ビックバーガーには必ず毎月テストがある。
テストといってもペーパーテストではない。
店のきれいさ。
商品を提供するスピード。
商品のおいしさ。
店員の接客の態度。
それらを総合的に判断し、点数をつける。
ちなみに100点が最高得点。
審査員はお客さんである。
普通の客に混ざってくるので、いつ来ているのかはわからない。
今月も高円寺店に審査員がやってきた。
「おつかれ。五十嵐。川根店長はいるか。」
「お疲れ様です。川根店長は早番ですでに帰られました。」
本社から古島スーパーマネージャーがやってきた。
スパーマネージャーは店長より上のクラスで、
十数店舗を統括指導する立場だ。
月に一回は必ず高円寺店に巡回にくる。
テストの後にくることが多い。
「どうされました。」
「大変なんだよ。今月の高円寺店のテストが60点だった。」
古島スーパーマネージャーの顔は少し青ざめている。
「60点ですか・・・。」
60点は高校のテストでいうと赤点を意味する。
赤点が3回続くと、社員の降格やボーナスの査定にも影響してくる。
それほどにテストの結果は重要なことなのだ。
「先週の日曜日の昼に審査員がきたそうだ。社員は誰がいた。」
「日曜日ですか?」
僕が店をまわしていた時間帯だ。
しまった。
「私です。」
「五十嵐、お前か。何やってんだよ。
注文をしてから商品が出るまで時間がかかりすぎだよ。
ポテトも少し冷めているし。店内も汚れていたそうじゃないか。」
「すいませんでした。」
「謝ってすむ問題じゃないだろ。この仕事は結果がすべてだ。
新人だってゆるされないんだぞ、五十嵐。
今度赤点をとったら、契約社員に降格だ。」
「契約社員にですか?」
「そうだ。こんな点数じゃ、俺も常務に報告できない。
俺の成績にも影響してくるんだ、わかってるな。」
僕は古島スーパーマネージャーにさんざん怒られた。
こんなに人に怒られたことは人生において初めてだった。
就職するまでは、むしろ人にほめられることが多かったのに。
古島スーパーマネージャーの言うことは正論だ。
ただこの人の本心は自分がかわいいのだ。
自分の成績のことしか考えていない。
僕はこの人がどうも好きになれなかった。
その日僕はずっと60点をとってしまったことが頭から
離れなかった。
店を閉めて一人で高円寺の商店街を歩いていた。
人もまばらな商店街のアーケードの下では、
若いストリートミュージシャンの澄んだ歌声が響いている。
曲はウルフルズの「明日があるさ」。
その歌の歌詞が僕の胸に響いた。
今の自分とかさなる。
僕は、ずっとその前で歌を聴いていた。
電車にのる時間も忘れて。
