早番が1か月ほど続いた。
金田と鬼塚というアクの強い2人との仕事にもようやくなれてきた。
今日から遅番に入ることになった。
高円寺店は昼と夜とでメンバーは全然違う。
昼は主婦やフリーターのアルバイトが中心である。
一方、夜は高校生や大学生がメインになる。
「五十嵐さんは早番ばかりで、遅番でみかけませんよね?」
男子大学生の吉田がいった。
吉田はアルバイトのなかでもベテランで、高円寺店の中心メンバー。
きさくな性格で、アルバイトからも慕われている。
「そう。遅番ははじめてなんだ。いろいろ教えてね。」
「いや、教えるなんてとんでもないです。早番は慣れました?。」
「うん。まずまずかな。ただ金田さんと鬼塚さんはちょっとこわいね。」
「ええ。あの2人は個性が強いですからね。若い大学生の
子たちは、2人がいるから昼間のシフトに入りたがらないんですよ。」
遅番では、夜の6時頃から8時頃までピークタイムがだらだらと続く。
それがすぎると、一度現場から離れて店の事務の管理をする。
売上の管理。食材の発注。アルバイトの勤務表の作成。
そういった事務的な仕事もあるのでいそがしい。
店を10時半に閉めて、本格的に事務の仕事にとりかかった。
売り上げを数えて金庫にしまう。
そして商品の在庫やロスなどをパソコンに打ち込む。
要領をえていない僕は時間がかかった。
店のカウンターの方から楽しそうな笑い声が聞こえる。
仕事の終わった大学生たちが、売れ残った商品を食べていた。
「五十嵐さんもどうぞ。」
「ありがとう。おれもまぜてくれ。」
僕はかれらと一諸にポテトを食べ、コーラを飲んだ。
たわいもない話だがとても心地良い。
1時間ほどすぎた。
「やばい。店を閉めるの途中だったんだ。」
僕はやりかけの仕事にとりかかった。
「お疲れさまでした。」
アルバイトが皆帰っていく。
深夜の高円寺店は一人ではちょっとさびしかった。
遠くからちょっと音程のはずれた歌声がきこえてくる。
ストリートミュージシャンの歌声。
今はそんな音さえありがたかった。
その日は結局1時すぎまでかかってしまった。
笹塚のアパートまでは自腹のタクシーで帰った。
