ファーストフード店の仕事は大きくわけて2つある。
レジにおける接客。
そしてハンバーガーやポテトを作るフライヤーの仕事。
この2つの仕事は社員もアルバイトも共通である。
「今日は五十嵐が接客。佐山がフライヤーをやろう。」
「五十嵐にはベテランのバイトをつけるから安心してくれ。」
店に入ると山井店長の表情がかわる。
キャップをかぶった姿がりりしい。
ぼくの教育係は霜村という女の子がついた。
渋谷にいそうないまどきの大学生。
「五十嵐さん。おはようございます。今日はどんどん
レジをやってなれましょう。」
霜村からメニューの説明をきき、接客の手順、レジの打ち方
をならった。
お客がきた。
「い、いらっしゃいませ。えー。こちらでおめしあがりですっ、かー。」
緊張するな・・・。
頭がまっしろになってレジのキーをさがせない。
霜村がフォローしてくれる。
「五十嵐さん。表情かたすぎー。鏡の前で練習するといいよ。」
「はいっ。霜村さん。」
またお客がくる。
「五十嵐さん。ドリンクは必ず先に落として。時間の短縮になるから。」
「はい。霜村さん。」
頭と体がばらばらだ。
いちいち考えないと体が動かない。
俺ってあんがい不器用かも・・・。
佐山は山井店長とポテトの詰め方を練習していた。
佐山の表情にも余裕がない。
昼のピークタイムになると店はきゅうにこんでくる。
「五十嵐、佐山。昼飯たべておいで。」
山井店長は笑顔でいった。
ピークタイムは自分たちはじゃまだよな。
当たり前のことだが、ちょっとくやしい。
うまくできない自分がくやしかった。
研修初日の夜。
僕はひとり暮らしのアパートで、
鏡の前で何度も接客の手順をくりかえした。