THE GROOVERS | 「私は区画整理地のまっただ中で笑うんだ♪」

「私は区画整理地のまっただ中で笑うんだ♪」

藤島住宅 岩原 賢太郎 の 営業日記

会うのは実に20年ぶりという友人と再会を果たした。

場所は中央線中野駅の居酒屋『呑来醍-のんきてい』

こちらも20年ぶりとなった。

 

会う前から、20年という歳月に驚きと恐ろしさを感じていた。

電話でお互いの容姿の変化などを確認したが、髪の毛が短くなったとか白髪が増えたとか愚にもつかないことばかり。

何しろ20年ぶりだ。

互いを認識できないとも限らないという恐怖から、念のため当日の服装などを宣言し合ったが、「お互い当時から大人なんだし、分からないってことないでしょ!」と私はなんだか急に強気になって言い放ち、具体的な日時を決めた。

 

当日。

当時よく待ち合わせた「中野駅南口改札前」に私は約束の時間の10分ほど前に到着した。

待ち合わせ人の多い「北口」ではなく当時から必ず「南口」で私たちは待ち合わせた。

彼とはそういう「自分に最適な居場所」のようなものが一致していたように思う。

 

その「南口」改札前で、しばらく辺りを見回したが彼の姿はないようだった。

時折、視界の隅に大きく体を動かす人や、こちらをじっと見つめるような素振りがある人を見かけると、(彼ではないか?)とこちらも相手を凝視したりしていた。

何しろ、20年ぶりなのである。

いざ待ち合わせの現場に来てみると、不安はつのる一方だった。

中野駅南口改札前を通りすがる一連の人々を凝視するたびに、

(まさか、こんなに若くはないだろ)

(いくらなんでも老け過ぎか)

などと、想像上のこととはいえ、誰彼に対し失礼な言動が頭の中を錯綜していた。

何となく皆、何処となく似ているように感じてきてしまうのだった。

「分からないはずがない」などという自信は、もうすっかり消えてなくなっていた。

彼が右から現れるのか、左から現れるのか、それとも正面の改札口から現れるのか、それすらも私は確認していなかった。

確認の電話をするのは何となく嫌だった。

 

正面の改札口から彼は現れた。

見紛うはずもない姿で。

「何も変わらない」と言って差し支えない姿で。

想像より若くもなく、老けてもいなかった。

そしてそれは、ごく当然なことなのだと、

この瞬間から『呑来醍のんきてい』での4時間以上を経て、深く理解した。

お互いに、色々あったような、なかったような。

20年ぶりのような、半年ぶりくらいかのような。

もはや20年ぶりであるということは、どうでもいいことだった。

再会して話したことと言えば、

最近、音楽は何を聴いているかとか、

結婚した感想はどうだとか

結婚してない感想はどうだとか

あの時お前はああだったとか

報告のような話は一切なく

ただ当時の思い出話と

現在も「概ね元気で幸せであるか」ということを、

自然な話の流れで確認できるような時間を持てたことが幸せであった。

 

 

そろそろ酔いが回って来そうかなという気配のなかで、

彼が小さなショルダーバッグからCDを取り出して私に差し出した。

「これ、持ってきた」

最近聴いてる音楽の話のやつだ。

「持ってきたって・・」

(そんなにすぐ返却できないだろうから・・)

 

「あげるよ」

彼はそう言って、2枚組のベスト盤を私の方へ押しやった。

 

あれから毎日、そのCDを聴いている。

あの時の時間が、まだ続いているかのようだ。