公演を終え息抜きをしたかったところに、ジム・ジャームッシュ監督の特集上映が行われていたから、ハシゴをした。
天才的なユーモア、写真作品のような美しさ、小憎らしいほど気の利いた音楽。
数年前に観た吸血鬼映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』で受けた感触が残っていた。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』が学生の頃に大流行した懐かしさや、ハワード・ブルックナーやサラ・ドライバーの作品も思い出しつつ。
レトロスペクティブということで色々やっていたから迷ったが、今回は『ダウンバイロー』と『コーヒー&シガレット』を続けて楽しんだ。
『ダウンバイロー』では、20代で観たときには感じなかったような可笑しさに黙って笑いころげた。そして、少しだけ哀しくなった。若い頃はもっと退屈だったのに、今頃になって、なぜこんなに面白く感じるのか。もっと小洒落て見えたのに、何故こんなに切実に美しく感じるのか。
『コーヒー&シガレット』は初めて観たが、唸るほどの名作だと思った。比類のないユーモアと美しさ。笑いの向こう側に、苦味があり、そして、何も押し付けてこない。かつ、毅然とした個の存在の確かさを感じる。全てのシチュエーションが、なんだか、よくわからないけれど、なんだか可笑しくて、そして、なんだか、とても、切ない。
少し暗い場所で少しの時間、スクリーンの光の明滅を見つめる。そんな状況に、ジャームッシュの映画はしっくりくる。
僕にとってそれは、踊りの時間にも近い感じがある。見知らぬ個に向き合う愉しみだったり、別の個との出会いを通じて己自身の個に立ち返ってゆく時間だったり、という、、、。
久々にスクリーンで観たジャームッシュ映画は、若い頃よりも、何倍も楽しめた。年齢とともに、失ったものが増えたからか、わが身の滑稽さが深まったせいか、、、。
この人のセンスの良さと個人作家としての強さに、あらためて敬意を感じた。
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