6月12日(金)には「コンテンポラリーダンス/舞踏メインクラス」を、13日(土)には「創作クラス」と「基礎クラス」を再開。金曜日はピアノ演奏とダンスの静かな、しかし、とても集中したセッションが展開し、土曜日の稽古場では、あえてコンセプトワークに集中。いまこの状況で感じていることや、ここから稽古してみたいことなどを伺いながら、ダンスと社会の接点について、また、ダンスに関わってきた哲学や思想についてお話をして、充実した対話の時間から、新しいレッスンの方向性が見えました。身体やダンスから、当然ながら社会のことや経済のことにも話は及びました。そのなかで、ベーシックインカムの話題が出ました。これはダンスにも芸術にも、どこかで結びつくであろう話と思えましたので、以下、ちょっとお金についての日記を載せます。
「先月末、5月29日だったか、スペイン政府がベーシックインカム(最低所得保障)を閣議で承認したというニュースを読み、とても驚きましたが、どこか妙に納得できるような気持ちにもなりました。スペインでは、どの世帯にも年間平均1万70ユーロ(約120万円)の最低所得が保障されるというのですが、これは画期的なことだと思いました。「はたらく」ということについて、考えの基盤が大きく変化する可能性があるからです。はたらく、というのは経済生活の基礎ですが、それは文化にも深く関わっています。
コロナ禍での困窮に対しては、日本でもさまざまな一時金が出て本当に有り難いのですが、それでも不安がやわらいでいかないのは、もしかすると、先が見通せない状況のなかで、継続的長期的な国民支援についての提示がいまのところ、まだ出ていないからかもしれないなあと思ったりします。ウイルス感染と同じくらいおそろしい経済危機が予想されるというこの状況は有事なのだから、国民の命を守る方法の一つとして、お金と労働の仕組みを考え直すことは、国防と同じくらい値打ちがあるのではないだろうか、なんて獏たる思いをしてしまいます。コロナ以前の競争経済が最良でそこに戻る努力が100なのか、あるいは、これをキッカケに過去とは別の仕組みを考え始めるべきなのか、ということも、気になります。
そんなことをあれこれ考えながら、ふと思うのが、あと何ヶ月後か何年後かわからないけれど、ウイルスが完全収束して経済状況が安定するまでのあいだ、国民全員の衣食住を国家が補償する、つまり一時的なベーシックインカムの実施を、試みることは出来ないものだろうかということです。そしてそれを長期的な制度にするべきかどうかも含めて、この状況を、かつての競争的資本主義から新しい経済の方法を探すための、社会実験の機会にできないだろうか、なんて思ってしまうのです。そこにスペインのニュースが聞こえてきたのです。
たらればの話をしても下らないと言われたらそれまでですが、でも思います。スペインに続いて、もし日本が、ベーシックインカムを経済政策の視野に入れ、国民の生存権を具体化することができたなら、それは新しい世界のための貴重な挑戦となるのではないだろうか、と。ベーシックインカム制度は政府も試すが国民の民度も試される。日本人は、競うことよりも助け合う、という文化を構築することに、そろそろ挑戦するべきだとも思うのです。もとより日本にはその下地があるのではないかとも思います。
最低限の生活保障は人間に考える余裕を与えるはずです。いま、考える、ことが必要な時期が来ているのではないかと思います。お金を稼げない人は自立できないという常識に慣れてきたが、ベーシックインカム社会ではその常識がなくなり、お金を稼ぐ意義が変化する。自らが生きるために働くばかりではなく、他を生かすために働くことも大きく視野に入ってくるのではないか。喰わんがために稼ぐのではなく、投資のため、寄付のため、勉強のため、遊びのため、贅沢のため、ともかくいろんなことに「回す」ために稼ぐという人も今より増えるのではないでしょうか。お金の根本を、競争原理から友愛原理に移行させることに、一歩近づくことになるかもしれない。
さらに、ベーシックインカムとセットで、お金に消費期限を付ける、という考えもコロナ状況を境に出てきても良いのではと、妄想します。貯め込まないようになり、お金が「回る」ようになるのではないでしょうか。シルヴィオ・ゲゼルの「スタンプ貨幣」や、ルドルフ・シュタイナーの「エイジングマネー」などのようにです。
シュタイナーは僕がダンス活動と並行して継続している身体芸術「オイリュトミー」の創案者ですが、第一次世界大戦のあとスペイン風邪のパンデミックが起きた頃に社会の危機をめぐって色々な考えを提示し、そのなかで示したひとつが有機経済という発想でした。自然物と同じようにお金も老化して次第に価値を変化させるようにする。「何のために働くのか」「お金とは何か」この二つを変化させることで、生活文化は大きく変わるかもしれません。
過酷な状況は、新しい仕組みを考えるタイミングでもあると思います。いまこの状況だからこそ考え実現できることが、あると思うのです。コロナ発生前の競争資本主義に戻る必然性はどの程度あるのでしょうか。この危機は、平等と友愛をめぐって真剣に考える機会ではないかとも思います。危機ゆえにこそ、再構築できるものも、生み出すことが出来るものも、ずいぶんあるのではないでしょうか。」
つづきをまた近日。
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再開情報6月より全クラス再開!!
・コンテンポラリー/舞踏(メインクラス)
・基礎オープン(からだづくり)
・創作(初歩からの振付創作)
・オイリュトミー(感覚の拡大)
・フリークラス(踊り入門)
舞台活動は秋の再開実現をめざしており、状況に応じて判断いたします。くわしいご挨拶や前回公演の記録などを、上記サイトにて掲載中です。ぜひ、ご一読ください。