青山ですこし時間があいた日があり、そばを通った。何度この辺を歩いたかわからないのに、初めて中に入った。アトリエの隅のピアノがちょっと素敵な佇まいだった。いつの頃だったか忘れたが、岡本太郎がグランドピアノを弾いてパッとこちらを見つめて何か叫ぶ、そんなコマーシャルを見た憶えがある。そう言えば岡本太郎の絵はどこか音楽のようでもあると僕は思う。空間や精神の内部で鳴り響いている音楽が色彩やフォルムになってこの世に飛び出てきているようだと思うことがある。この人の絵の前でいつか一度ダンスを踊ってみたいとも思う。そういえば、なんという文章だっただろうか、ああ、見事に忘れているけれど、岡本太郎の書いた文章の何かのどこかの部分に、つみへらす(積み減らす)、という言葉を見つけてストンときた憶えもある。積み重ねる、という言葉を彼なりに変化させて錬金術のように生み出したのだと思う。何かをやればやるほど経験が新しくなる、というようにもきこえる。いい言葉だと思う。本当は、岡本太郎についてはたくさんいろいろな憶えがある。書きたいこともいっぱいある。けれど、まるでまとまらないまま時が過ぎている。彼の絵を見るたび、彼の文章を読むたび、新しく思うことが出てきてしまうからかもしれない。