イケムラレイコさんの展覧会に行ったとき、「うさぎ観音」の前に座って、真っ昼間なのに、いつのまにか、星をみつめているような気持になっていた。そのままぼんやりと座っていたら、じぶんの心の中の雑音がきこえてきて、なんだか悲しく思えたが、すこしのちには、それはそれで良いのでは、と、なぜか思えてきたりもする、というような経験をした。

ひとつの作品の前で、心がずいぶん移り変わってゆく。移り変わってゆく心を、作品(うさぎ)がだまって見つめている。僕も作品を見つめているが、作品のなかから、何者かが、こちらを見つめている。

土と星。という題名で、この展覧会はおこなわれている。こんなに、と驚くほど沢山の作品がならぶ。それらの、ひとつひとつの、あらゆるすべてが、きめこまやかで、おどろく。おびただしい言葉のささやきが、そこには重なって響いている感じもして、胸のなかがうずく。ある絵がつらく痛覚に触れるように思えて、でも眼を伏せることができない、ということもあった。

たとえば神風特攻隊の海の絵の前で、たとえば赤い木の絵の前で、たとえば炎のような女の人の絵の連続の前で、これは僕たちヒトに対するばかりでなく、たとえばソセンとかシゼンとかいう呼称でよびたくなるような遠い存在にさえ、対してある絵なのではないか、と思えてくることもあった。

おしまいの大きな部屋に広がる新しい作品群にかこまれたとき、感覚が変わった。そこには大きな大きな見知らぬ母の肌が広がってあるようにも見えてきた。かこまれながら、ひととき、僕は自分のナマエをわすれてしまいたくなっていた。まぼろしのような女性に、樹木に、明るく赤くなってゆくような力の波と、同時にかぎりなく深い深みを沈んでゆく闇を感じていた。海のような揺らぎも感じていた。

この展覧会のなかに居るあいだ、絵を見る、ということが、絵に見られる、ということに感じられたりもした。僕は作品に対峙するというより、それらに包まれて、身を委ねて居たのかもしれないのだけれど、、、。
六本木の国立新美術館です。





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アート・音楽・その他


Stage info.
櫻井郁也ダンスソロ新作『トラ・ラ・ラ』
2019年4月6〜7日:東京・plan-B

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