小躍りするような気分で展示空間をあるいていたが、
ひとところ雰囲気が異様に鎮まっていて、踏みとどまった。

津波を受けたピアノがあった。

そのまえでしばらく過ごした。
とても静かなのだが、いっぱい歌がひしめいているように感じた。
そこには、そこにしかない時間が流れているように感じた。

やがて演奏会となった。
音の広がりと入れ替わりに、夜が場所を満たしてゆくのだった。

気がつけば部屋の電灯が消えていて、
壁一面ガラスなのだけれど、そこに外から光が射してはどこかへ行く。

眼を閉じて音楽をきく、
あるいは街の光を見つめる。
あるいはピアノの深い黒を見つめる、
そしてまた眼を閉じて、

演奏がおわったとき、
いまは二度とこない、
ということをなぜかとてもつよく、
つよく感じていた。

もういちど、津波を受けたピアノのそばに行った。
ひたすら、ただただひたすらな静かさを感じた。

忘れられない体験をいただいた。

いまは二度と、、、。

向井山朋子展『pianist』(エルメス銀座)



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Stage info.
櫻井郁也ダンスソロ新作『トラ・ラ・ラ』
2019年4月6〜7日:東京・plan-B

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