路上、夜空を見上げている人がいて、月蝕に気づいた。
こんな夜なのに、急いでいた。急ぎ足がクセになっているのかなと、少し恥ずかしくなった。
立ち止まって見ている人は、たくさんではないが、ひとりではなかった。
青梅街道なので普段は皆目だれも止まってはいない、立ち話する人もない、そこに遠くまで見ると、ぽつりぽつりと、人が上を見て停止している、
それがまた、綺麗だった。
月が暗くなって明るさを取り戻すのは、おそろしく滑らかで、ゆっくりだったが、時間が確かな感覚があった。
月のヒカリは揺らめきながら光っているように錯覚した。
天体が天体に触れる、じわりと浸るような時の速度。
ただただ空を見上げているそういう時間は僕にはしばらくぶりだった。
急いでいると体内に棘やササクレが増えてゆく感じがするが、そんなものがひととき萎えていくのがわかった。
胸のなかも無音になっていた。


Stage 3/31〜4/1 櫻井郁也ダンスソロ新作公演
Sakurai Ikuya dance solo | 31 th Mar. 1st Apr.