ジャコメッティの彫刻するネコは、とめどなく素早い。
なぜかそう思った。彫刻はぴたりと止まっているのに。

とても大きいネコだった。
細い風のように遠くから遠くにしゅっと、いる。
ぼやっと立って見つめていると、いまそこにいたのにもういない、
という感じもあった。彫刻はずっとそこに在るのに。

ある種の速度がネコの形式に結晶化しようとするようでもあった。

心というものを眼で見ているのかなあとも思った。

とても小さな人間もあった。
小指より小さくて、堂々としていた。
女だった。
これは中が燃えているかもしれないと思った。
だからこんな極端にジッとしているのだろう、とも思った。

展示室で手帳に走り書きして帰ったなかに矢内原氏の文章があって、ときめいた。

〈彼の仕事は、見えるがままにぼくの顔を描くということだ。見えるがままに描く、この一見簡単なことを、しかしいったい誰が本当に試みたであろうか。〉という文章だった。