雨のなかを走った。

いま、雨あがりの夜空に、ほのかに月が見える。

晴れた夜空の月よりも、はるかに遠く思える。

遠さは、いい。

遠く、淡く、かすみのあるものは、クリアなものより、なぜか素敵に感じる。

遠きを映せ。

雲に薄く滲んでゆく月の色。

風にのる雲の動きが、ゆっくりゆっくりと、月光を変化させてゆく。

晴れた夜空にはない、やわらかいグレーの色合いが、広がってゆく。
グレー、灰の色。
灰は存在と不在の境を思わせてくれる。
そういえば、黒や白が美しく見えるのは、そこに微かなグレーの痕跡を感じる時かもしれない。

月は空にじっとある。
しかし、きょうの夜空のそれは、どこまでも遠ざかるように、じっとしている。

ただ見ているだけで、気持ちがシンと鎮まってゆくから不思議だ。

無音の響鳴が、どこかに聴こえるみたいだ。

(坂本繁二郎、ターナー、フリードリヒ……。
そんな人たちの絵を、ふと思い出した。)