ダンスクラスでエリック・サティを踊っていると書いた。
サティといえば、昨年の秋、フランスのメッスにあるポンピドーセンター新館に行ったとき、『パラード』の舞台美術が展示されていて、興奮して見つめた記憶がある。
ラジオやタイプライターがオーケストラと競演してノイズ溢れる愉快な見せ物的音響世界をつくりだす『パラード』(Parade)はサティの代表曲のひとつでもあるが、『春の祭典』数年後に同じロシアバレエ団によって生み出された革新的なバレエ。舞台美術と衣裳はピカソだ。
大きなペガサスの背中で踊る白いバレリーナが、とても印象的で、それは空から舞い降りる新しい時代の気配みたいにも感じた。奥には突き抜けるような青空、しかしペガサスの足場は大地ではなくステージの木の床であり、周囲には大きな袖幕が波打っている。ペガサスは床に転がった天球儀をじっと覗き込んでいた・・・。
このバレエ、レオニード・マシンが中国の奇術師を踊り、コクトーが台本を書いたという。
何と豪華な組み合わせ。いったいどんな空気とエネルギーが満ちていたのだろう。
時代の空気といっしょに観て感じるのがダンス。いっしょに生きている感動や驚きや衝撃がたまらないわけだし、そんな観客席のなかの気持の動きが舞台に伝わって、作品は活きたものになる。そして、ダンスは体験した人々の心の中だけに残ってゆく。
そう思いながら、パラードの美術を見つめていると、すこし切なくもなっていった。
ところで、ご存知の通り、このバレエのプロデューサーはセルゲイ・ディアギレフだが、僕は彼のことをあまり詳しくは知らなかった。
ロシアバレエ団(Ballets Russes)の作品や出演者やアーティストたち(ニジンスキー、バランシン、パヴロワ、フォーキン、マシーン、ルビンシュタイン、カルサヴィナ、リファール、ドビュッシー、グラズノフ、ラヴェル、ストラヴィンスキー、バクスト、マティス、シャネル、ミロ、まだまだ無数の!)にまつわる話題はとても多いけれど、この人々を結びつけていったディアギレフという人物についてのまとまった何かを見たり読んだりする機会にめぐまれなかったから。
だから、ディアギレフの詳しい伝記を見つけたときは、あったあった、という感じで嬉しかった。しかも、ほんとうに詳しいのだ。生まれ育ちから、バレエを手がける前の生活の浮き沈み、そしてバレエ団設立後のひとつひとつの舞台のバックボーンまで。かなりドラマチックだった。
みすず書房の『ディアギレフ』という本、鈴木晶氏の翻訳です。
話は変わるが、伝記といえば、草間彌生さんの自伝があった。これはとても感動的。
彼女の生き方や発言から力づけられることが僕にはとても多いのだけれど、びっちり一冊の本に凝縮されると、やはり迫力があって、しかも文章が美しくて詩みたいに感性に響く。何よりも、エネルギーをもらうことが出来るのは、彼女がどんどん本音をさらけ出してくれるからだと思う。
水玉一本の勝負。ばん、とハダカになること。狂おしいほどの熱とハキハキした言葉は、彼女の愛の証拠なのではないかと感じる。
心から生きている人の言葉がきっちりと記されている。
少し前の本だから、文庫で買えます。『無限の網・草間彌生自伝』という題名です。
サティといえば、昨年の秋、フランスのメッスにあるポンピドーセンター新館に行ったとき、『パラード』の舞台美術が展示されていて、興奮して見つめた記憶がある。
ラジオやタイプライターがオーケストラと競演してノイズ溢れる愉快な見せ物的音響世界をつくりだす『パラード』(Parade)はサティの代表曲のひとつでもあるが、『春の祭典』数年後に同じロシアバレエ団によって生み出された革新的なバレエ。舞台美術と衣裳はピカソだ。
大きなペガサスの背中で踊る白いバレリーナが、とても印象的で、それは空から舞い降りる新しい時代の気配みたいにも感じた。奥には突き抜けるような青空、しかしペガサスの足場は大地ではなくステージの木の床であり、周囲には大きな袖幕が波打っている。ペガサスは床に転がった天球儀をじっと覗き込んでいた・・・。
このバレエ、レオニード・マシンが中国の奇術師を踊り、コクトーが台本を書いたという。
何と豪華な組み合わせ。いったいどんな空気とエネルギーが満ちていたのだろう。
時代の空気といっしょに観て感じるのがダンス。いっしょに生きている感動や驚きや衝撃がたまらないわけだし、そんな観客席のなかの気持の動きが舞台に伝わって、作品は活きたものになる。そして、ダンスは体験した人々の心の中だけに残ってゆく。
そう思いながら、パラードの美術を見つめていると、すこし切なくもなっていった。
ところで、ご存知の通り、このバレエのプロデューサーはセルゲイ・ディアギレフだが、僕は彼のことをあまり詳しくは知らなかった。
ロシアバレエ団(Ballets Russes)の作品や出演者やアーティストたち(ニジンスキー、バランシン、パヴロワ、フォーキン、マシーン、ルビンシュタイン、カルサヴィナ、リファール、ドビュッシー、グラズノフ、ラヴェル、ストラヴィンスキー、バクスト、マティス、シャネル、ミロ、まだまだ無数の!)にまつわる話題はとても多いけれど、この人々を結びつけていったディアギレフという人物についてのまとまった何かを見たり読んだりする機会にめぐまれなかったから。
だから、ディアギレフの詳しい伝記を見つけたときは、あったあった、という感じで嬉しかった。しかも、ほんとうに詳しいのだ。生まれ育ちから、バレエを手がける前の生活の浮き沈み、そしてバレエ団設立後のひとつひとつの舞台のバックボーンまで。かなりドラマチックだった。
みすず書房の『ディアギレフ』という本、鈴木晶氏の翻訳です。
話は変わるが、伝記といえば、草間彌生さんの自伝があった。これはとても感動的。
彼女の生き方や発言から力づけられることが僕にはとても多いのだけれど、びっちり一冊の本に凝縮されると、やはり迫力があって、しかも文章が美しくて詩みたいに感性に響く。何よりも、エネルギーをもらうことが出来るのは、彼女がどんどん本音をさらけ出してくれるからだと思う。
水玉一本の勝負。ばん、とハダカになること。狂おしいほどの熱とハキハキした言葉は、彼女の愛の証拠なのではないかと感じる。
心から生きている人の言葉がきっちりと記されている。
少し前の本だから、文庫で買えます。『無限の網・草間彌生自伝』という題名です。