新潟での公演(8/15:越後妻有トリエンナーレ2012津南ブロック「瀧澤潔展」にて)が近づいてきました。

今回の公演の特色は現代美術との共同作業です。
美術家の瀧澤潔さんからの呼びかけで行なうことに決めました。

最初に氏とお話したのは、千葉の松戸に恒久展示されることになったインスタレーション作品を拝見しながらでした。

美術作品というのは、やはり波動をもっていて、写真で見るのとナマで傍に佇むのでは、おおきく異なると僕は考えています。ダンスはその視覚的な印象よりも、コンセプトやテーマよりも、なによりも、その波動を感じることから生まれてくる感が強いのです。そしてダンスはそれ自体が視覚的なものですから、相性というものが、やはりあります。その美術にふさわしい肉体と、ふさわしくない肉体というものが、はっきりあるに違いありません。
そして、作品がきちんとそこにあるのに、わざわざ踊るというのは、何かしら必然がないと空間が汚れてしまうようですし、僕自身は、コラボコラボと言ってあちこち頻繁に踊るタイプでなく、どちらかというとじっくり内面から練り上げてようやく踊るタイプ、さて、どうすればいいのかな、という体勢だったその背中をポンと押してくれたのが、最初に観た、この松戸の作品でした。

はじめまして云々・・・、と軽い挨拶のあと、じゃあ私はちょっと外しますんで一人で観て来てください、と、作品の中に僕は入っていったのですが、とてもすぐに、これはやっていける。そう感じたのでした。

『放射能ではなくたくさんの希望の光を』という題名でした。
松戸地区の放射能の状況は皆さんご存知だと思いますから、説明はしませんが、
松戸駅の一角にある通路全面が作品空間。
通行人もあり、駅のざわめきもある。しかし、そこには何か周囲とは大きく異なる、くっきりとした結界で区切られたような清潔さが生み出されていました。
ゆあお~ん、という音が聴こえてきそうな感じがあり、あるいは、毛穴に言葉が染み込んでくるような感じがあり、ともかく強い場の力でみなぎっていました。
それはダンスを誘発すると言うよりは、あるいはダンスと相性が良いと言うよりは、肉体に挑戦的な空間でした。

雑踏の地下通路の壁面を埋め尽くす無数の白い点。それらは光のようであるけれど、近づくと一つ一つが小さな日本国旗であり、くっきりした物から消えてゆきそうな物まで、さまざまな表情をもってひしめきあっています。そのなかに立ち止まり、じっと見つめ、やがて通過してゆきながら、僕らは僕ら自身の現在を思わずにいられなくなります。
隙間なく明晰な言葉のなかに居る感覚というのか、非常に目覚めた意識で現実に向き合ってゆくような緊張感を感じ、ああ、これは面白いことになるかもしれない、この人の作品にダンスを結びつけるのは大変そうだけど、やりがいのある作業になるかもしれない、と思ったのでした。

  


そして、(前にここに書いたように)今回のインスタレーションを制作中の現場を観せてもらいに行き、ダンスと美術についてのかなり突っ込んだ対話をへて、具体的なプランニングに入ることが出来ました。

目に見える空間であり、すべて手に触ることも出来る物質でできているのだけれど、それらはすべて、ひとりの人間の手作業によって感情を吹き込まれた、物や空間。それらに囲まれて、ダンスを生み出してゆくという作業。
美術作品という、いわば、魂の内部で踊るわけですから、かなりデリケートな作業です。
さらに、今回のプロジェクトは、かつて織物工場として起動していた建物を使って行なわれます。いちど廃墟となっていた建物に、美術家の瀧澤潔氏は3年に一度の越後妻有トリエンナーレという芸術祭のたびに手を加え、すこしづつ自らの作品として変容させ再生しているのです。
そこにはギャラリーや劇場とはまったく異質の「仕事の痕跡」や「人の気配」が、やがて風化してゆくプロセスとともに独特の風景を現出しています。
静かな村、鮮やかすぎる緑、そのなかに忽然と現れるこの建物を初めてみたとき、僕は、時の深みを覗き込むような感覚にとらわれました。
そして季節。ひとびとが故郷に思いを寄せ、祖先や亡くなった方々の記憶とともに過ごす「お盆」の季節に踊りを奉ずるということには、やはり、なにか意味があると思っています。

美術作品、ダンス、建築、風土、季節・・・。

これらが、どのように結びつくかが、今回の公演の楽しみであります。

宇宙というものは、もしかすると、さまざま異なる世界の呼び交しや連続や循環といった「出来事のむすびつき」によって、ありつづけ、かつ、うつろいつづけて、息しているのかしら。

そんなことを夢想しながら、振付けや、時間の流れや、音の鳴りや、そして、肉体の雰囲気などを随分たくさん探り続けてきました。

まだまだ膨らんでゆくと思います。ぜひ、楽しみにしていてください。

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